「うちひしがれる。子供が見るべきでないものを見続けさせられた少年の眼は神の眼など通り越して人間の業(自分達と違うものを排除する等)を冷ややかに見つめるカメラのレンズとなる。」異端の鳥 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
うちひしがれる。子供が見るべきでないものを見続けさせられた少年の眼は神の眼など通り越して人間の業(自分達と違うものを排除する等)を冷ややかに見つめるカメラのレンズとなる。
①少年が人間(大人)世界の醜さ、戦争の愚かしさ・悲惨さを目撃するところは『ブリキの太鼓』を少し連想させる。ただ、あちらは如何にもゲルマンという感じに対し、こちらは東欧の土俗性が強く感じられる。②まるでモノクロの絵画のような映像美の画面。画面に力があるので眼を逸らせない。3時間近くある長尺だが少しもだれない。悠然と流れる川の様な演出だが最終半はやや駆け足っぽくなったキライはある。③異常に嫉妬深い男が盛りのついた猫の交尾に狂気を爆発させて、妻に色目を使ったと思った使用人の眼を抉り出すシーンはかなり強烈。だが、この後本来子供が見るべきでないものを延々と見せられる少年の眼を抉る代わりとして使用人の眼が抉られたと取れないこともない(その証拠に少年は抉られた眼を使用人に返してあげる。ここで眼が入れ替わったという暗喩か)。④ドイツ(その前は神聖ローマ帝国)とロシアに挟まれていることから歴史の波に揉まれ、また多民族・多文化が併存する東欧のことがわからないと本当にはこの映画を理解出来ないのかも知れない。それでも自分達とは異なるものを排斥する(その最たるものがナチスによるホロコースト)という人間が共通して持つ狭鎰さ(劇中何度もモチーフとして出てくるキリスト教では原罪に当たるのかしら)は世界共通のものであり、失くなるどころか最近はポピュリズムという形で現代社会を覆いつつある。⑤もちろん少年は、観察者というだけでなく普通の子供であれば経験しない目にも会う。数えきれないほど鞭打たれ、性的虐待を受け、生きるために盗みもする。勃たなかっことを好きもの女に詰られた少年は、これ見よがしに女が⚪⚪した相手のヤギの首を落として女の部屋に投げ込む(ゴッドファーザーか!)、敬虔な筈の信者に肥溜めに投げ込まれる(田舎の協会のトイレってあんなのかが分かって勉強?になったがバッチい…カラーでなくて良かった)。人を殺すことも辞さなくなった少年(最初の殺人は自分を守るためだったし…相手は死んでも当たり前の糞野郎…二人目はロシアの兵士の「目には目を歯には歯を」を実行したに過ぎないとも言えるけど)は、やっとさがしだしてくれた父親にも心を開かず氷のような眼を向ける。そんな彼が父親の手に残された収容所で付けられた番号を見て彼もまたpainted bird だったということを理解して、バスの曇った窓にYOSKAという自分の名を書くラストシーン(私達観客もここで初めて彼の名前を知ることになる)は心が震えた。