「【第二次世界大戦中、”ある人種”の少年が経験した苛烈過ぎる日々を描いた作品。現在でも世界に蔓延するレイシズムに対する強烈なアンチテーゼを示した作品でもある。】」異端の鳥 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【第二次世界大戦中、”ある人種”の少年が経験した苛烈過ぎる日々を描いた作品。現在でも世界に蔓延するレイシズムに対する強烈なアンチテーゼを示した作品でもある。】
ー 冒頭、少年は叔母と荒野の小屋で二人暮らしをしている。
少年は両親らしき人物と映っている写真を大切そうに眺めている。
が、ある日叔母は椅子に座ったまま動かず・・、少年は夕方まで自室で待つが様子を見に行き、死を確認した後、驚きの余りランプを床に落としてしまい、叔母の家は少年の大切な写真と共に燃え上がる・・。
全てが灰になった世界に立ち尽くす”非力な”少年・・。-
■今作品には、ナレーションは一切ない。
セリフも必要最小限。観ている側に提示される情報も極めて少ない。
モノクローム映像が、少年が経験する余りにも苛烈な数々の事を、章立てで、淡々と映し出していく・・。
<”名もなき少年”が経験した苛烈な出来事、幾つか・・>
・叔母の家を離れた少年は、祈祷師の老婆の所に連れて行かれ、”この子の黒い目は禍を運んでくる・・。吸血鬼だ・・”と宣託され、老婆の助手として働かされる。
・その後、ある老人一家の家に居候状態で転がり込むが、その家の主(ウド・キア)は若き妻と使用人との関係を訝しんで、夕食時、酒に酔い、スプーンで使用人の目玉を抉り出す・・。
ー うわわわ・・。”本気の”ウド・キア、怖すぎである・・。狂気を漂わせた目が怖すぎる・・。-
・野鳥を飼う老人とも、短い間共に暮らす。老人はロマらしき女から野鳥を買い、時に女と交わる。
女は村の男の子を挑発し・・、淫らな行為に及ぶが男の子たちの母親にバレ、厳しすぎる罰を女たちから受ける。そして、老人も又、自ら命を絶つ・・。
ー 老人も、ロマに近い存在かもしれない・・。
老人が傷ついた鳥の羽を治療し、空に放つシーンは今作を象徴しているシーンの一つであろう。大空を舞う鳥の群れは、
”羽に白い治療薬を塗られた鳥”
を受け入れず、地面に叩き落とす・・。
その鳥を掌に乗せる少年の表情・・。-
・少年は、ナチに捕まるが、”憂いを浮かべた”ナチの将校(ステラン・スカルスガルド)は少年を”射殺した事”にして逃がす・・。
ー今作では、”3人だけ” ”人間の善性もしくは矜持”を持った人物が描かれる。このナチの将校もその一人である。-
・少年は再び、ナチに同人種の老人と捕まるが、司祭(ハーヴェイ・カイテル)に助けられ、ある”罪を償った”男(ジュリアン・サンズ)と共に住む。
が、男は司祭の前では殊勝な顔をしているが、少年に対しては本性を現し、凌辱し、”司祭には言うな”とロープで吊るし、犬を嗾け脅す・・。
ーこの司祭は上記の3人の一人である。
司祭は男の本質を見抜いているのだが、”頼むぞ・・”と言葉を掛け、男の善性が戻ることを期待したが・・。司祭は病で亡くなる。
”男の塹壕での哀れな末路を観ていると、人間が一度、無くした善性は簡単には戻らないのか・・。”と暗澹たる気持ちになる・・。-
・少年は、凍った湖を歩く。時に氷が割れ、水中に落ちようとも、前進する。湖畔に立つ小屋が見える。そこには、病の老人と孫娘らしき女。春が来て、老人は亡くなり女は露骨に少年にみだらな行為を迫る。そして、ある晩”人間として、一線を越えた行為”をしている女の姿を少年は見てしまい・・。
ー少年は、ロバの首を切り落としたが、あの淫蕩な女が同じ目に会ってもおかしくないだろう・・。
ロバの首を女の寝ている小屋に投げ入れ、少年はその忌まわしい地を後にする・・。-
・少年は貧しき村でひっそりと生きていたが、コサック兵に襲われる村。何の罪もないのに殺戮される村人たち。が、そこにソ連兵がやってきて、コサック兵を追い散らす・・。少年は、ソ連兵の将校の傍で暮らすようになる。
ーこのソ連兵の将校が3人目の”人間の善性もしくは矜持”を持った人物として描かれる。仲間が野営地を出て地元民に襲撃された時に、この将校は少年を連れ、高い木に登り、少年に”良く見ていろ・・”と言い、ライフルで地元民が集落に狙いを定め、男達を撃ち殺す。
そして呟く ”目には目を・・、歯には歯を・・だ。”
そして、少年に”拳銃”を渡す。-
・少年は、街中で”ある人種”であることを、ある商人から激しく罵られ、殴打される・・。
- 少年が、その男に行った報復。且つては、”非力で”何もできなかった少年が・・。
”ある忌まわしき概念、思想”が齎した悲しき出来事であろう・・。-
・そして、ソ連兵の宿舎に待ちに待っていたはずの父親が現れるが、少年は笑顔一つ見せない。父親が作ったキャベツのスープも口にしない。父親は悲しそうな顔で少年を見つめ、”仕方がなかったのだ・・”と言う・・。
ーあれだけ、次から次へと苛烈な体験をしたのであるから、少年の対応は仕方がないよなあ・・。父親の哀し気な表情から、その痛みが観ている側にも伝わってくる。
が、少年も父親も悪いわけではない。生き残るためにした決断なのだから・・・。
では、その責任はどこにあるのか・・。-
<父親と二人でオンボロバスで家に戻っていく少年。疲れて眠る父親の腕には、ナチによって入れられた刻印が・・。
そして、少年はその刻印に目を置いた後、曇ったバスのガラス窓に”ヨスカ”と指で書いた・・。
少年が、実に久しぶりに、”一人の人間”に戻った瞬間だった・・。>
■モノクロームで淡々と・・、
苛烈な出来事を、”これでもか!”と観客に静かなトーンで、叩きつけてくる作品。
現代社会に蔓延る、自らにとって”異質なモノ”を拒絶するレイシズムに対する激しい怒りを込めた作品。
とても重く、正視しにくい場面も多数出てくるが、腹にズシンと響く、骨太過ぎる作品でもある。>
■蛇足 <2020年11月7日 追記>
・劇中、少年たちが交わす言葉が”何語”か分からず、”私もマダマダだなあ・・”と思いながら鑑賞していたが、先日判明。
スラブ語民族の人口共通語「インタースラーヴィク」であった・・。
バーツラフ・マルホウル監督の今作の映画化への執念(原作と出会ってからの準備に11年。脚本作りに3年。少年が成長する様を描くため、撮影に2年。)にも、勿論敬服した作品である。
こんばんは。
パンフはサクサク読める内容で、ちょっとした裏話などがありました❗
サイズが変わった形なので本棚に上手く収まらないかもです😅シネスコをイメージした形。
700円。
こんばんは!
鳥に塗っていたのは薬だったんですね。
(原因は何であれ)傷を負い、せっかく治療を受け飛び立ったのに、異端と見られたその鳥は輩からの攻撃で撃沈してしまう·····
まるで某○ィッターみたいですね。。。