「プライベート狙撃手」異端の鳥 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
プライベート狙撃手
プライベート・ライアンの狙撃手だったバリー・ペッパーがソ連兵役で出てきてギョッとしました。まさかと思いましたが何度観ても本人。うれしい誤算でした。ファンは観た方がいいですよ〜
不謹慎ですが、やさぐれた気分だったので、いつもなら行かない長尺の拷問を求めて鑑賞。
入りはともかく、観終わると案外ストレートなホロコーストものでした。
しかもアクションシーンあり。
↓ほんのりネタバレ
小難しくて拷問みたいな映画かなと思ってましたが、意外と普通の劇映画。
尺が長いことを除けば「ミッドサマー」の方が拷問度高いのでは?
観客の途中退場の話も、凄惨さゆえでなく、前半の単調さに見切りをつけたからでは? と穿って見てしまいます。
監督は否定してるようですが、やはりホロコースト映画というのは定期的に観るべき題材だと思うので、この機に鑑賞できてありがたかったです。
ただ…気軽な気持ちで観ることを拒む3時間の長尺、難解でハードな内容を想起させるビジュアルとアオリが逆に観客を遠ざけかねないのでは?
正直、この内容なら前半をもう少しコンパクトにしてもっと多くの人に届くのでは…と思ってしまいました。
白黒撮影の画面は文句なく美しくて、フェティッシュを刺激されてベルイマン映画とかみたくなってきます。ちまたでは黒澤映画と言われてるようですが。。
時計は見ていなかったですが、体感的に2/3くらいは淡々としたトーンで少年の苦難の旅が描かれます。
身寄りのない少年が大人に保護されては酷い目に遭う、こいつもダメだったか、みたいなのの繰り返し。
この反復は昔話とか民話みたいで、退屈ではないけど眠くなりました。
きっとこのまま静かなトーンで最後まで行くんだろうな…とこちらが馴らされたあたりで突如として大殺戮シーンが始まってアドレナリン全開、一気に目が覚めました。
こんな映画だったのか! と。
さらにあの人まで登場…ちょうどプライベートライアンを見直したばかりだったので鳥肌たちました。
大人たちは主人公を弾圧されている被差別民であり、また子供であるぶん反撃されないとタカを括っているのか、遠慮なくえげつない本性を見せつけてきます。
この、弱い立場の人間にこそ容赦なく振る舞うってのは万国共通の普遍的人間性なのかなあ。おそらくそこがテーマなんでしょう。
しかもハーベイ・カイテルを除けば敬虔そうなクリスチャンほどやることがえぐい。
作劇上の都合や、相手が異教徒だというのもあるのでしょうが、それだけに止まらないような印象でした。
日頃から口では綺麗事を言って自分の罪に向き合わない人間より、明日をも知れない過酷な現実にさらされている人間のほうが弱い者に親切、というのには単なる皮肉で終わらない視線を感じます。
ただ、各パートが短いので、えげつなさの上限にも限りがあるというか、深まったり上積みされたりしないぶん、表層的なダメさの陳列になってしまってるというか、確かに酷いけど、こちらの心が抉られるほどではなかったかなあと。
とはいえ最低限のセリフと芝居で淡々と必要な情報をこちらに理解させる演出は見事で、脚本も含めて安定したテクニックを感じさせます。
なにより主人公の少年役が子役でもなんでもない普通の少年だってことに驚愕。
どんな手を使ったらあんな芝居ができるんだろう…やはりこの監督の手腕は素晴らしいと思います。中の人のメンタルが心配になってきます。
前半は当面お腹いっぱいですが、後半はソフトかなにかで観直したいなあ。