「人は愚かで惨虐。」異端の鳥 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
人は愚かで惨虐。
最近、わかりやすく、見やすく作ってあるエンタメ映画じゃないと結構な確率で寝てしまってしょんぼり・・・ってなるので、『異端の鳥』は見るか見まいか迷いました。絶対エンタメ映画じゃないんでね。
でも寝ることなく、夢中で見られました。ひとまずほっとしました。
邦題は『異端の鳥』ですが、原題はthe painted birdです。
中盤で、後に自殺する男にペンキを塗られた小鳥のことです。
あの小鳥は、ペンキを塗られて他の鳥とは異形=異端になったんですね。
で、異端となった鳥は、その見た目の異端さから他の鳥に殺されたのです。
さて、主人公が受けた仕打ちと重なりませんかという比喩、なんだと思います。
ここで群れの中で一人だけ外見が違う、というキーワードから絵本スイミーを思い出しました。
スイミーは赤い小魚の群れの中にいて、1人だけ黒くっていじめられますが、スイミーの働きかけによって、異形を活かして群れに貢献することで許容されるというストーリーです。
小学校の教科書でこの物語を読んだのですが(絵本も読んだかな?)、周囲との差異は許容されるべきだという人生訓として折々に思い出します。
鳥と魚を人に置き換えて考える寓話として、共通項がありながら、結末は両極端です。
スイミーは理想であり志なんです。で、異端の鳥は現実なのです。
我々は、おぞましい現実から理想をめざすわけですが、理想は本当に遠い、と思いました。
主人公が見た目で異物と判断される基準が、私にはわかりませんでした。
東欧のどこかでは、茶色い眼で、濃いいろの髪はユダヤ人かロマであり、地元民(って言葉は適切でないかもだけど)とは違うということなのかな?そんなに東欧では茶色い眼って珍しいのでしょうか…不案内でそこがよくわかりません。
いずれにしても主人公は、ただの子どもでした。善か悪かも未分であった小さき物は、大人からの暴力にさらされ、彼らの仕打ちから暴力を覚えます。
冒頭では、オコジョみたいな狐みたいな生き物を守って森を逃げていた男の子が、後半にはヤギの首を切り取って人を脅かすことになります。人も殺します。
過程を見ていた私には主人公を責められません。
彼に責任があるとは到底思えません。
彼は自分にされた仕打ちから、生きていく方法を選び取っただけに思えます。
彼が出会った人たちが特段異常だったとは思いません。人は斯様に残虐であるということです。
してるかどうかも分からない浮気を疑い、妻を夜な夜な殴打する夫とか(夫きもすぎる)、
息子らをたぶらかした女をリンチして殺す母親たちとか(私は母親たちが異常だと思ってる)、
性的に不能(もしくは未熟)な主人公をあからさまに侮辱する少女とか(ヤギとの性交のまねごとを見せつけるとかきもすぎる←ヤギと性交していたとみる評もあったけど私には振りに見えた、けどどうなんやろ…ほんまにしてたってゆう描写なんだったらよりきもすぎる)
コサック兵とか、ドイツ兵とか、やさしい神父の信徒たちとか、戦争につかれているとか、貧しさにあえいでいるとか、様々な抑圧はあるんだろうけど、10歳程度の子どもにすることか?とおもえる残虐さが見せつけられます。
この75年ほど前の虚構が見せつける残虐さは、2020年の人間にももちろんみられる残虐さです。
私にもないとは言えない、醜い感情、行動(は私はしてないつもりだけど)…
人は醜いという現実を、重ねて知ることになりました。
後半のあらすじを雑に綴ると以下の感じです。
性的虐待きもきもヤローをネズミに食わせて逆襲し、やさしかった神父の元へ行ったら神父は死んでて、その葬式で朦朧として失敗したら地元民にドブ?肥溜め?に投げ捨てられて、それ以降声を失った、んだそうです。
だそうですっていうのは、見ていて気付いたからではなく、鑑賞後にコラムとか読んでなるほどと思ったわけですが。
で、ソビエト軍にちょっと囲われ、多分その時にはもう第二次世界大戦は終わってるっぽくて、その後孤児院にたどり着きます。
で、お父さんって人が迎えに来るけど、声は失ったものの、言動で父を責めます。机の上の食事をぶん投げるだけでは収まらず、廃屋?の窓を割りまくり、荒れ狂います。
そのまま終わりかと思ったら、お父さんとバスにのってお母さんの待つおうちに向かいます。
憔悴しきったお父さんの腕には、数字の入れ墨(ナチスが強制収容所の囚人たちに彫った番号、いろんな映画に出てきます)があります。
憔悴したまま目を閉じるお父さんをみて、主人公は、埃っぽいバスの窓ガラスに指でヨスカと自分の名を書き、映画は終わります。
映像はモノクロで、セリフは極少です。カラフルに感じるモノクロ映像ってゆうのがあるんですが(『COLD WAR あの歌、2つの心』とか)、『異端の鳥』はそういう感じではなく、色彩を失ったという雰囲気のモノクロです。
わたしは分かりにくいとは思いませんでした。
コサック兵とロシア兵の違いがよくわからなくって混乱しました。
復習したところ、コサック兵とはざっくりいうとウクライナらへんにあった軍事共同体(ってなんぞや)で、WWⅡではドイツ軍側についたらしいです。
惨虐な映像も多いので、万人に勧められるタイプの作品ではありませんが、良作だと思います。