「「愛」は「憎悪」と表裏一体、1度ヒビが入ったら取り返しのきかないもの」マリッジ・ストーリー マエダさんの映画レビュー(感想・評価)
「愛」は「憎悪」と表裏一体、1度ヒビが入ったら取り返しのきかないもの
「カイロレンとブラックウィドウの離婚劇!」という情報のみで鑑賞してみたが。
離婚劇というので、
倦怠期でとっくに愛の尽きた夫婦仲最悪の二人が罵詈雑言浴びせあいながら親権を争い合うドタバタ修羅場シリアスコメディ
かと思いきや、そんな単純明解なものではなく、もっと複雑で難解でピュアなものであった。
個人的に夫婦という生き物の複雑怪奇さを如実に描いた傑作だと思う。
まず前半、離婚は決まっているがお互いを尊重しあい、相手の長所も短所も理解しあっている、一見何が問題で離婚に至ったのかわからない夫婦像が描かれる。
二人とも大人である、お互いの不仲が子供の成長に大きな影響を与えることもわかっているし、実際お互い憎み合って別れるわけではない。
子供をアダムがいるNYとジョハンソンがいるLAの間を行き来させながら、適度な距離感で離婚を進めようと努めている。
しかし、ひょんなことから妻が弁護士を雇ったことを機に、親権争いはお互いの計画と反してもはや後戻りできないほどの泥沼に陥っていく。
前半コメディかと思えば親権争いあたりからシリアスになり、終盤に恋愛モノへと帰結し涙が溢れてくるこの構成は見事。
ベルイマンの倦怠期夫婦もの「ある結婚の風景」やら、親権争いドラマの傑作「クレイマークレイマー」やら、出会いと別れを対比して描いた「ブルーバレンタイン」やらを彷彿とさせる要素が詰まっている。
本作は男女の対比が明確で素晴らしい。
まずお互いの長所を言い合う場面、NYとLA、自分を取り戻していく妻と自暴自棄になっていく夫、カラオケのシーン、その他諸々。
長所は短所へと、好きは嫌いへと、安心は不安へと、成功は失敗へと、変貌していく。
極めて現代的な夫婦だが、抱えている問題はいつの時代も色褪せない根本的なもの。
結局、フェリーニの「道」の時代から(まぁ人類が誕生してからだが)男は失ってから気づく、鈍感で愚かで間抜けな生き物であるのかなあ。
僕は途中からアダムスの心情に完全に同化してしまい、見るのが辛くなっていった。
しかしあれだ、寄りは絶対に戻らなくても、愛というものは全て綺麗さっぱり払拭されるものではないと。
しっかりと愛し合って、しっかりと別れと向き合った相手となら、多分絆は永遠のものであると。
そんな、非常に希望に溢れるラストで素晴らしかった。
あと絶賛すべきは主演俳優二人の演技。
最近のイメージである、セクシーでグラマラスなアクション女優としてのスカーレット・ジョハンソンはそこに存在せず、見事な長尺の一人芝居、夫婦喧嘩などを演じきり、一人の女の喜怒哀楽がこの映画の彼女にはギュッと濃縮に詰まっていた。
アダムスドライバーはスーパー旦那としての前半部分と、男の情けない部分を凝縮させた後半部分、綺麗に転換していくグラデーションのある、泣ける演技が見事だった。
とりあえず本作はトラウマ恋愛映画の仲間入りです。