「トム・クルーズの映画愛と前作へのリスペクトに殴られる」トップガン マーヴェリック ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
トム・クルーズの映画愛と前作へのリスペクトに殴られる
前作への熱いオマージュが、随所に散りばめられている。86年版をリアルタイムで劇場鑑賞した人などは特に、オープニングの字幕が出た瞬間にもう心がわし掴みされたのではないだろうか。
私はいつかテレビで見たかなというくらいで、細部の記憶がほとんどなかったので、2日前に配信で前作を予習した。本作だけ見ても過去のことが分かる作りにはなっているが、前作の記憶を新鮮なものにしたことで、マーヴェリックが亡き友グースに抱く感情の解像度が上がった気がする。そして、前作の監督トニー・スコットへの強いリスペクトを、より明瞭に感じ取ることが出来た。
王道の物語とご都合展開は、時に紙一重だ。本作も、後でよく考えればこれはさすがにあり得ないとか、非現実的な主人公贔屓だと思う箇所が点々とある。いや、正直スクリーンを見ている最中に頭の片隅で既に感じていた。タイミングよく再会したお似合いの女性と恋愛し、一匹狼的経歴ながら突如教官に抜擢され、教官でありながら本番で前線に出て、驚異の飛行テクニックを駆使し現役トップガンをしのぐ活躍をする。トム・クルーズ全部盛りのためにあるような筋書き。なんだかんだ言いながらグースの息子を結構無駄に危険な目に合わせるし(笑)
だが本作の場合はそれでいいと思える。何よりもまず映像の迫力、カッコいい戦闘機の数々、そしてトムのスターの輝きで、そういう野暮な煩悩をぶっ飛ばしてくれる。すごいもの見られるんだからまあいいやという気持ちにさせてくれるのだ。
あら不思議、こんなところにF-14が。いいんだよ、マーヴェリックとルースターがF-14に乗るってところがアツいんだから!
見たいものを期待を超えた迫力と臨場感で見せてくれたなら、ご都合展開は観客の期待に応えた演出という誉め言葉に変わる。
トムだけでなく現役トップガンを演じたキャストは皆、5か月の訓練を受けて実際にF/A-18に搭乗したという。ひとつのコックピットに6台のIMAXカメラを設置したそうだ。パイロットたちの表情は演技だけではなく、本物の過酷なGと実際に闘う姿でもある。
似たような映像を、CGでいくらでも作れる時代だ。それでもトムは実写にこだわり、時間をかけ体を張ってあの映像を作り出した。そこには、実際にあの状況に置かれた俳優たちの生身の感触が滲んでいた。
戦闘シーンの臨場感があったからこそ、過去の弁明がなくとも和解したマーヴェリックとルースターの、共に死線を越えたパイロットの絆が説得力を持った。
トムは、コロナ禍で本作の公開が延期になり先に配信で公開しようという話が来ても、映画館での公開を譲らなかったという。その姿は、作中で消えゆく仕事だと言われたパイロットという職務を、人生そのものと考えるマーヴェリックと重なる。
自ら飛行してミッションが可能であることを示した彼のように、トムはこの映画を作って見せた。エンタメ映画の力、本物の映像の力ってすごいだろう?と、直々に気合を入れてもらった気分だ。
追記
○敵国がどこの国かあえてぼかしたことについて、コシンスキー監督は以下の理由を挙げている。
・本作はスポーツ映画に近い。友情と奉仕についての物語であり、地政学のお話ではない。
・1作目も敵国は明らかにされていない。同様に、マーヴェリックと周囲の関係性を描く、キャラクターの物語に集中したかった。
・世界情勢は常に変化する。10年20年後も楽しめる作品にしたい。2020年代に作られた作品だと感じてほしくない。
○久しぶりに「字幕 戸田奈津子」の文字を見た。監修も付いて、多分大きな問題はなかったと思うが、「棺桶ポイント」で私の超訳アンテナが反応した。後で調べたら「coffin corner」は航空業界に実在する言い回しで、単なる直訳(?)だった。
○アイス役のヴァル・キルマーは、2017年に咽頭癌を患っていることを発表し、その後寛解したが声を失った。現在実生活では、AI技術によって元の声を再現した音声でコミュニケーションを取っている。本作でのかすれた発声は、AIを使わない実際のものなのかも知れない。
ナイス空耳です!w
トニー・スコットへのリスペクト、確かに伝わってきましたね〜!!
トムの拘り、素晴らしかったです。
そして久々の戸田奈津子さん…流石でした。
ニコさん、コメントありがとうございます。
そうだったのですね。
マーヴェリックさん、教官にも惚れながら、こともあろうに提督の娘さんにちょっかい出していたのですね。
空に対してのみならず、女性にも自由奔放にヤンチャすぎますよね(笑)
ニコさんのレビューの「王道の物語とご都合展開は、時に紙一重」わかります。
観客ウケする“ベタな展開”をどう上手く料理するかで、物語って大きく評価を変えてくると思います。
今作はその王道をギッチギチのサービスで煮込みながらも、旨い出し汁を濁りなく取って上質の料理に仕上げてくれたように思います。
ヘタしたら、食えたもんじゃない闇鍋状態になりそうなところでしたが。
最高に楽しめましたよね。
そうなんですよ!
ストーリーのご都合主義?知ったことか!これはトップガンだぞ!って感じです。
全ては戦闘機が格好よくあるためにある映画なのです!
ちなみに、オープニングのトップガンアンセムが流れ出した瞬間!涙が出ましたw
Araiさん、コメントありがとうございます。
SNSを見ていると、第5世代戦闘機からロシアを連想する人も多いみたいですね。
作中では、86年版でトムが乗っていた機体という意味が大きいのだと思います。
トムが配信に応じなかったという話とヴァル・キルマーの喉頭癌の話、初めて知りました。
トムが映画館で観る映画に拘り、そのことに感化されて、一緒にこの公開に辿り着くことに尽力したすべての人に感謝するしかないですね。
改めて感動が深まりました。
ありがとうございます。