「アニメ大国の日本が失った何かがある、良質で丁寧なアニメーション」ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメ大国の日本が失った何かがある、良質で丁寧なアニメーション
日本人がいつの間にか作れなくなった高品質で素直で良質な、とてもアニメらしいアニメ。最高の形で少女の冒険・成長物語であり、目的は家族の誇りや夢といった王道的展開から軸はブレないものの、それが素晴らしいアニメーション技術とところどころよぎる死亡フラグ(そしてそのへし折り)のおかげで見てて退屈することがまったくない。
何よりキャラクターがしっかり「演技」しているところが素晴らしい。アニメとはかくあるべしだ。
図書館でにおいをかいだり、おじいさんに北極圏のハナシを聞いてごく小さなため息をついて想像をめぐらせたり、舞踏会に入るときの社交界用の感情の作り方だったり、シンプルな線で奇をてらった構図を使うわけでもなくしっかりとキャラクターの感情をその挙動の中で伝えられている。なので不要なセリフが存在しない。キャラクターのそれは、映画でいうところの役者の演技力であり、本来ならば最重要視されるスキルなはずだ。
日本のアニメーション制作者の中で、これを満足に果たそうとしているクリエイターが果たしてどれほどいるのだろうか?
大人が観ても新しい気付きが多いのも、王道ながら退屈しないポイント。
19世紀のロシア帝国という日本のエンタメ作品ではあまり取り上げられない題材だが、当日の貴族たちの生活や波止場の食堂の様子、北海の航海の様子などが表面的でない生活感を伴ったリアリティをもって描かれている点はどれも新鮮で面白かった。
シナリオ構成要素は本当にベタで王道で(悪く言えば既視感にも塗れていて)、世間知らずな女の子が泥臭く努力しながらたくましく成長していく姿はウジウジしない魔女の宅急便ともいうべきだし、サブキャラクター達の世界も過剰すぎない範囲で気持ちよくわかりやすいものにまとまっている。あくまでサブフレーバーとして、船長と航海士の葛藤や兄弟愛や、ガキの恋心とか、遭難に直面した船員たちの不安などが良い添え物として機能している。
しかしそんなベタな内容なのにまったく「クサい」と感じないのは、最近の日本のアニメが毒されている惰性でカマしているような過剰演出がないからだろう。ドラマチックなシーンのそれでも、前述のようなキャラクターの丁寧な感情描写はあるものの、辟易するようなキャラクターの長ったらしいセリフの独白(盛り上がるBGM添え)といったものが全く無い。とても清々しい後味のアニメーション映画になっている。
船長の死亡フラグがことごとくへし折られるのが凄い。ずっと死ぬものと思ってた…。