「欧州動画の底力」ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
欧州動画の底力
故高畑勲も強烈な推薦をしていたという今作品、確かに鑑賞後にその想いが深く心に染込む内容であった。
先ずは何と言ってもその画の圧倒的透明さ。まるで切り絵のようなシンプルな質感だが、この全体的に黄色い色彩設計をどうやったら日本で表現出来るか困難な程の、マットで、しかし透明感振れる鮮やかな色彩なのである。勿論、夜のシーン、暗い部屋のシーン、大嵐の洋上シーン等は一気に薄暗くなるのだが、それとの対象の凄まじさは計算され尽くした演出となって映し出される。目映いばかりの太陽と、だからこそ強調される影、これは北極近くだからこその太陽の強さを印象付ける意味でしっかり画力となって伝わるのだ。確かに映像とというより、一枚一枚のセンス溢れるイラストがスムースに繋がっているかのような錯覚さえ覚える。日本アニメの倍のコマ数で動く贅沢な動画は、その滑らかな動きを遺憾なく写し取られ、観る者に感嘆と羨望のため息を誘発させる。そしてその魅力的な画に載せる叙情感ある、そして最新のハイセンスの劇伴。エモーショナルを存分に引き出す楽曲に、これ又心地よさを引っ張り出される。
ストーリー内容も、万国共通の易しい冒険譚になっていて、自分のアイデンティティを探すジュブナイル物としての要素もしっかり織込まれる。特に港の居酒屋的食堂の女将さんのパートは、そのテンポ感が驚くほど心地よく、1ヶ月という期間で、所謂“お嬢様”から一人の探検家に成長する件は、只々優秀なアニメを見惚れる程の出来映えである。こんなシンプルな画なのに、空の広さ、風景の圧倒的広がり、グラデーションの妙等々、正に高畑版かぐや姫にも通づる大胆な構図と余白の置き方は素人でも充分理解できる。
スペクタクルなシーンも充分見応えを感じたし、そして極限状態に於ける人間の行動はまるで“八甲田山”を想起させるストレートな演出に心が抉られ、そしてそこからの自然を超越した神的な流れの中で、探していた祖父との再会迄を演出したブリザードの表現と、幻想的で冷気をたっぷり含んだ濃霧の超絶リアリティな動き。目の生き生きとした動きと力強さはあのシンプルな作画でどうやって心理描写を表現させているのか感心することしきりである。
エンドロール後の、祖父が北極点に挿したお子様ランチのような旗が風で飛ばされるシーンは、多用な解釈を想起させる。北極はどの国のモノでもない、孫娘が迎えに来てくれたことでやっと待つことを終えることが出来た安堵、折角挿した旗が無常に飛ばされる一種の皮肉とコメディ要素、etc・・・ そんな解釈の余白をも描写する今作品の恐ろしさは驚くばかりである。
日本は勿論アニメーションとしては世界中で認められている産業だが、果たしてこういう情緒を養う芸術的な作品はどれだけ制作されているのだろうか…。フランスのアニメのレベルの高さに憂慮を隠せない自分がいる。