「監督の工夫を感じる斬新な一作」ミッドサマー ろびんさんの映画レビュー(感想・評価)
監督の工夫を感じる斬新な一作
ディレクターズカット版を鑑賞した。3時間弱とホラー映画としてはかなり長尺だったので、集中力を保てるか不安だったが、終わってみればあっという間だった。そんな不思議な感覚を覚えてしまうのも今作の魅力なのかもしれない。
なかなか感想をまとめるのも難しい作品で、読みづらい部分もあるかと思うが、参考程度に私の考えを共有できたらと思う。
【物語冒頭】
冒頭、主人公の女の子は離れた場所に暮らす家族が、妹によって心中を行うというキツイ体験をする。そして自らも精神を病み、彼氏に依存していくわけだが、その彼氏もまた彼女に辟易している描写がある。(知り合いに似たような関係性のカップルがいたので、妙なリアリティを感じた)
【旅路】
スウェーデンの夏至祭へ招かれた一行を乗せた車は、淡々と一本道を走っていく。「シャイニング」の冒頭シーンを観ているような感覚があったのだが、ここで気になるカメラワークがあった。最初は後ろから車を追いかけていたカメラが徐々に先行し、上下が反転していく。まるで「ここから先は常識が通じない」と言っているように感じた。それが意図されたものかはわからないが、底知れない不気味さがあった。
【祭典】
夏至祭が始まると、その祭りの異常さよって主人公とその彼氏を含む仲間の間に軋轢が生じ始める。最初、主人公以外は村の異常さに気づきながらも、研究のためにインタビューを始めたり、デリカシーのない行動を取ってコミュニティの内部に侵入していく。彼氏がそんな態度を取るものだから、主人公は依存先をなくして不安を募らせていく。
しかし、その立場は次々に覆っていくのだ。村のタブーを犯した仲間たちは村人たちによって葬られ、逆に主人公はコミュニティに依存していくことになる。最後に村の一部となった主人公のタブーを犯した(彼女を蔑ろにすること)彼氏は、主人公自身の願いによって葬られることになる。
このストーリーの構成にはかなりの緻密さを感じさせられた。
【描写】
今作の特徴の一つは、その描写の斬新性にあると考えている。
夏至という時期が舞台のため基本的に昼間に物語が進行していくこと、白く美しい衣装を着た村人たちなど、これまでの「田舎に行ったら襲われた」系ホラーの閉塞感を感じさせない映像なのに、不気味さが終始漂い、妙な圧迫感のある描写だった。美しすぎて、不自然。それが原因だったのだろうか。
それとは別にユニークな点としては、殺人の描写がほとんど描かれていない点である。基本的にこの手の作品では主人公が体験する恐怖を描くのにスプラッタ表現が用いられることが多い。もちろん多少はグロテスクな表現もあるが、圧倒的に少ない。あくまでコミュニティの思想や伝統が我々と違い、理解できないことから生じる恐怖感に焦点が当てられていたと思う。
【最後に】
まったくまとまりのない文になってしまったが、正直自分の理解が追いついていない自覚がある。この作品には、主人公たちのたどる悲運に対する暗示やメタファーが随所に散りばめられていたが、全てを拾うことができていないように思う。
おそらく、今作を理解するのにはあと2,3回の鑑賞が必要な気がする。だが、観たくない。この作品に対する最大限の賛辞として「もう観たくない」と言いたい。