「完全に観客を選ぶ映画。「家族」の恐ろしさから「共同体」の恐ろしさへの進化形」ミッドサマー どうか夢だと言ってくれ!さんの映画レビュー(感想・評価)
完全に観客を選ぶ映画。「家族」の恐ろしさから「共同体」の恐ろしさへの進化形
『ヘレデタリー/継承』で家族の恐ろしさを思う存分味あわせてくれたアリ・アスター監督だが、今度は家族を超えて「共同体」の恐ろしさを示した作品になったとは思う。
老人が72歳(これは還暦+12年なのでまんざら適当とも思えない)で自ら死を望む風習(例えば姥捨て、なんなら子殺しも)は、近代以前にはどこでも普通にあったことなので、異常とはいえない。それを現代まで続けているのはどうかとは思うが。ことほどさように、現代福祉社会に慣れ親しんだ思考から見ると異常と思えることが今でも慣習としてだったり宗教上の規則だったりしてまかり通っている状況は世界的にみれば実際にある。
しかし、わざわざ「招待」しておきながらそのコミュニティーの掟を破ったからみんな「浄化」というのもなんか、人としてどうなんだろうと思う。結局、このコミュニティーが得たものは「一人分の精子」ですからね。(ネタバレと思うかもしれないけれど、本作の前半でこれから起こるだろうことはほとんど示されてます)
この作品が示すもっとも優れた点は、「知らない土地において口にするものはすべて恐ろしい」というフード描写を徹底的に観客に植え付けたところでないだろうか。
映像的にこれはと思わせるところがいくつかあるものの、全体の印象を上まわる程ではない。日本人が普通に感じている「野原は美しい」という幻想は完璧に叩き潰されるが。
主人公の視点からすると、結局『ヘレデタリー』と同じなのではないかと思う。しがらみを全部捨てて新しい「家族」に出会うという結末において。
アリ・アスター監督は今後どういう作品を作っていくのかいささか心配になる。もっと身近なホラーを志向した方がいいのではないかと思う。