「彼女はあのあとどうなるか」ミッドサマー kozoiさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女はあのあとどうなるか
ミッドサマーの評判の良さは、単に民俗学的な知識が(いや知識ですらない。単に聞いたことあるかどうか)ない人たちの間でワーワー盛り上がってるだけのようだ。
5ちゃんの感想みてると頭クラクラしてくる。
共同体の外部からきた人が歓待される、民俗学でいう「まれびと信仰」「まれびと殺し」についての映画だという基本が分かってない。そりゃあ意味わからなくて先が見えなくて面白いだろう。
ふつうに大学卒業してれば、民俗学や文化人類学を学ばずとも聞いたことがあるはず。映画開始の15分程度でだいたい結末まで想像ついてしまう。
5ちゃんの感想、疑問に「なんでよそ者が女王になるんだ?」などと書かれている。なるほどこういう人たちが見て面白がってるのね。
民俗学的にはむしろ逆。
女王という地位は妬みを生む。共同体の中での争いや対立をなくすためには外部の人間こそふさわしい。女王はまれびとたるダニーでなければならない。あのダンス選手権の結果は最初から仕組まれたものです。
でも「外部から来た人に統治できるはずないだろ」って?
そもそも統治させません。祀るだけです。映画のラストの状態。あのままだということです。(現代の民主国家においても世界各地の王族は象徴として祀られるものであって統治権力を持ちませんね)。
祭りの期間が終わるか、子どもを産ませるか、とにかく共同体にとって利用価値がなくなるまでは利用します。少なくともダニーがあの集落を治めることは絶対にないです。
女王選びのような共同体で生じる軋轢(ストレス要因)を外部から来た人間にかぶせて集中させることで、調和を保つ。現代から見れば大量虐殺ですが、あのようにして集団のなかでのストレスを緩和しているわけです。まれびと殺しといいます。
民俗学の知識がなくとも女王がどのように選ばれて棄てられるかを推測させる描写があります(当方ディレクターズカット版のみ鑑賞)。
若者が泊まる宿舎に歴代の女王の写真が飾られてます。あれ何枚ありましたか。パッと見で10以上はあったとおもいます。
写真が発明されたのはせいぜい150年前かそこらです。
あの村では72年で死ぬことが決まってるとして、女王はかなり早いサイクルで交代させられてることになります。
仮に夏の時期の18〜36歳の間の18年間だとしても、18年×10人でも180年。
あの村の90年に1度の祭りがいったいどこまでをさすのか判然としません。女王選びは少なくとも違います。写真や肖像画が多すぎる。
そして72年という生命サイクルで10進法が用いられるのも謎です。
そもそもいつ、どういう基準で女王を降ろされるのか、ダニーの直前の女王は誰だったのか、映画の中で描かれていません。
90年に一度の祀りであるとか、村の側から提供される情報は基本的に疑ってかかるべき。
ほかにも5ちゃんには「あんなに沢山行方不明者がでたら世間や警察が騒ぐからありえない」とありますが、日本だけでも2000年以降の数字を見ると年間10万〜8万人です。世界規模ならどうでしょうか。バックパッカーや奇妙な旅好きを餌にしているんでしょう。たしかに身元のはっきりした旅行者なら騒ぎにはなりますが、少なくともダニーは家族全員死んでいました。だからこそ彼女は「適任」だったのかも。
ちなみに村の女と彼氏がセックスさせられるのも「客人婚」といって民俗学では珍しくないならわしです。
血が濃くなることを避けるために旅人の子を産み、村の子として育てます。父親はいりません。
これは映画の方にはありませんが、昔の祭りで夜になると顔を隠してセックスしてわざと普段のパートナーとは違う人と交わったり、となり村の女をさらって嫁にするなど色々な方法でそれがなされていました。
古代の村落や原始宗教の価値観をいまの目でみると残酷なものであるという点はそのとおりだなとおもいますが、わざわざこの映画で確認する必要は自分にはないので星0.5です。