「新境地の開拓」映画ドラえもん のび太の新恐竜 theatanさんの映画レビュー(感想・評価)
新境地の開拓
【ネタばれあり】
ストーリーそのものは「恐竜」「竜の騎士」の名作を足して2で割っていますが、その安全路線こそが、まとまりのないカオスプロットをしっかり着地させられた要因でしょう。(完全オリジナル脚本で行こうと思ったら、完成度の高い旧ドラ群とがっぷり組み合うことさえ至難の技です)
ことさら恐竜がテーマの最初から勝ち目のない戦いなので、「双子」「のび太の成長」「ミスチル」といった要素を重ねて、どうにか真っ向勝負を避けようと製作陣が踏ん張っているのがうかがえました。
よかったところ
・CGの多用によって、ジュラシックパークを観ているような別種類の興奮が味わえる
・新しい恐竜学説に触れている(舞台が日本)
・教育的(生きものの進化)
・ひみつ道具の伏線
・タイトルロールとエンドロール
ダメなところ
・(最近の映画の傾向ですが)時空間的にどこにいるか説明が足りなすぎて、大冒険をしているダイナミック感・長旅感・メリハリがない
・ひみつ道具の説明すら少ない
・クライマックス以外でも視点がぐるぐる回り、単純に見づらい
・悪役が描けていない
・無駄な場面転換が多い
ツッコみどころは多すぎるので省くとしても、ピー助の友情出演はわかってはいても親世代は胸がグッとなります。
なにより、低年齢の子が終始笑いながら観ていて、鑑賞後には「面白かった!」と何度も言っていたのが全てではないでしょうか。
きっと新ドラ世代にとって、自分たちの長編ドラえもんが心から面白いと感じた初めての経験だったのでしょう。
旧ドラのように名作が続くほうがむしろあり得ないし、観たところで絵柄や声など時代感の違いから感情移入できていなかったのだと思います。
もっとも子どもにとって記憶に残るのは、あの頃の親世代と同じく、内容だけではないでしょう。
エアコンの効いた部屋の小さな画面でなく、うだるような暑さの中映画館にわざわざ足を運び、マスクを付けてひとつとびの席でゆったりと鑑賞する。
その思い出こそ、最大のコンテンツだと思えた夏でした。