「ラブストーリーではあるが、映画への愛の讃歌」ソワレ 作品に向き合うゆき平さんの映画レビュー(感想・評価)
ラブストーリーではあるが、映画への愛の讃歌
まず、この映画、万人受けはしないだろうなと思います。スクリーンから惹き付けられるものはあると思うけど、全体的に静かで普通に見ていたら感情移入もしにくい作品かと思います。
でも、自分としては見方を変えたら本作の伝えたいことを感じ取ることができました。まあ、あくまで自分の解釈としてですが、、、
さて、作品に触れると自分が見てて思ったことは、主人公=映画、ヒロイン=観客ということです。
主人公は人間的であれど、どことなくファンタジーな存在のように思います。あまりよく知らない人と共通なものがあるからと一緒に逃げてくれる。正直、ありえない存在だと思った人は絶対いると思います。自分も思いました。
それに比べ、ヒロイン側の方は感情を追っていくと人間的で現実的な存在として描かれていたように思います。ただただ普通と幸せが欲しかった女性として。だけど、それを得ることができない、どうしようもない現実が襲ってくる。きっと、介護も大変ながらやりがいはあったと思います。でも気づいてしまったんだと思います。ただ死ぬのを待つだけに。
そんな時に起きた悲劇による人生の転機によって変わっていく。
この逃避行自体も非現実的ではあるけど、それはやっと望んでいたようなヒロインにとっての自由でもあったのだと思います。しかも、ヒロイン一人ではなく、男性の主人公と。
ただ死ぬのだけを待つだけだと思っていたのに、ある意味、王子さまのような存在と出会い、二人で逃げる。
現実は常に襲っては来るが、逃避行していくうちに自分の長所、人の優しさ、恋心、愛を感じながら経験していく。失われた時間を非現実的な部分で取り戻していく。
だけど、主人公も人間的な部分も出てきてヒロインに対して苛立ちが募り、二人が分断されてしまう。なぜなら主人公は失うことだけになっていくばかりだから。
一人になったヒロインは改めて現実を知り、孤独なことを知る。そこで死ぬことを選んでいくんだけど、怖いから人間だから死ねない。
そこでもう一度出会う主人公とヒロイン。もう本当にご都合主義的で主人公はファンタジーな存在だなとここで改めて感じさせるが心が揺さぶられる。ネイルの部分も非現実的ながらロマンティックで良い。
二人は最終的には、ヒロインだけが捕まる。
正直、ここまでならロマンティックな話で終わるのだが、この映画、ラストになぜ主人公がファンタジーな存在なのか納得させられる。
ヒロインが度々、辛い時にやっていた仕草があるのだが、その仕草が主人公の自主映画で演技付けした部分であったという、いわば、どんでん返しのようなものが明かされる。
つまり、この映画はラブストーリーというよりも映画を見る人たちに向けた愛の讃歌のような作品なんだと思う。
映画には喜怒哀楽があり、人生が描かれていたり、時にはリンクする時もある。
ヒロインが捕まる時に言った「私の人生、からっぽじゃなかった」という言葉は映画を見てきた観客に対しての言葉のように感じた。
だから、映画の影響力というものを映像で見事に素敵な形で見せた映画史上最高の人生最高のラストカットだと個人的に感じる。
主人公=映画、ヒロイン=観客というのは現実を見なきゃいけないけども非現実的なものを主人公(映画)が誘い、理想を見て現実に生きることを描いた映画なのではないかと思った。
なので、評価に惑わされずに映画が好きなら一度は見てほしいし、響いた人ならラストカットは永遠なものになるかと思うのでぜひとも劇場で見てほしい作品。