「若々しく熱い青春音楽映画」ガリーボーイ しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
若々しく熱い青春音楽映画
独特の歌やダンスで特徴付けられるインド映画が、ラップとこんなに親和するとは驚いた。黒人の差別や貧困の歴史が、インドの根深いカースト構造に重なり、ラップの持つ怒りや反骨の側面が、力強くクローズアップされる形となった。
定番の青春サクセスストーリーで、捻りはないが、インド映画ほど屈託なく定番を押し通すのが上手いコンテンツはない。
恋に、将来に惑い、社会の下層で鬱屈する若者が、ラップという武器を得て力強く立ち上がる様を、『パドマーワト』では外連味たっぷりの悪役姿が目を引いたランヴィール・シンが、等身大の人間らしさに溢れた演技で、観客の共感を呼び起こす。
主人公をちょっと気持ち悪いほど善人に描くインド映画が多い中、主人公ムラドを、友人の犯罪行為に荷担したり、一夜の浮気に流されたりと、弱さも併せ持つ普通の若者として描いているのが新鮮だった。
とは言え、インド映画スターの大物オーラは隠しきれない。胸に沸々と燃える怒りを、無言で噛み殺すムラドの目力の強さ!視線で人が殺せるレベル。胸筋ありすぎてワイシャツ似合わな過ぎだし。後にパンフレットで、ラップも全てご本人が歌っていると知って驚愕した。何者だこの役者!
サイドのキャラも立っている。
ムラドの才能を後押しするラッパー、シェール。懐深く面倒見の良いアニキ分で高感度が高い。犯罪に手を染めながらも情に厚い友人モイン。懐に入れた人間は、自分の益を投げ打ってでも助けるのが、インド映画の熱い所。
中でも特出しているのが、ムラドの恋人・サフィナ。インドに於ける女性の不自由さを描く役割も担っているのだが、従来の女性キャラとは一味違う。嫉妬による乱闘を傷害事件に発展させ、男友達に対する「言う事聞いてくれなきゃアンタと結婚してやる!」発言が脅迫になる女。一方で、恋人に会うのにいそいそと髪や化粧を整える可愛らしさや、自分が女医になって稼ぐから迷わず夢を追えとムラドの背中を押す強さ。『バーフバリ』然り、インド映画には時に苛烈な女性が登場するが、ステレオタイプでない不思議な魅力のあるヒロインだった。もう少しばかり沸点コントロールできるようになって、ちょっと流され易そうなムラドの手綱をしっかり握って欲しい。
ラップという特殊な言語形態を訳す字幕担当者様には、大変なご苦労があったと思う。正確性は解らないが、詳しい方の監修もあったようで、詞として気持ちよく受け取れる巧みな訳になっていた。
が、ラップのリズムに会わせて結構な速度で字幕が流れていくので、文も読みたい、ランヴィールの表情やキレキレダンスも見逃したくない私はジレンマ状態。諦めてリピート鑑賞するべきか…。
音楽映画に通じて言える事だが、この作品は特に、応援上映に向いている。
インドの映画館の観客ばりに、ラップパトルにヒューヒュー言い、ライブシーンで拳を挙げながら鑑賞するのが、多分一番面白い。
映画館様、是非検討を!