劇場公開日 2022年2月11日

「スピルバーグはミュージカルを“映画”にした」ウエスト・サイド・ストーリー ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5スピルバーグはミュージカルを“映画”にした

2022年3月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画が終わると『ウエスト・サイド物語』を“映画”で観たんだな、という気持ちで満たされる。ご存知の通りこれは『ウエスト・サイド物語』のリメイクであるから、当然と言えば当然なのだが、驚くほどオリジナルに忠実に作られ、新しい映画を観たぞ!という満足感は乏しい。

オリジナルと比べてどうこう言うのはあまり好きでないが、登場人物たちを引きの画で見せ、大胆でアクロバティックなダンスの全身の美しさで魅せたオリジナルの方がミュージカルらしい風通しの良さがある。日常生活の中で登場人物が突如として歌って、踊るという特異な世界観を舞台からスクリーンに映し出した“ミュージカル映画”としての魅力はオリジナルに軍配が上がる。

しかし、やはりスピルバーグは優れたストリーテラーなのだと再認識した。本作は登場人物たちにカメラを寄せる。時にじっくりと俳優たちの表情を見せ、感情の起伏を伝え、時にダンスシーンの中にカメラを入り込ませ、その情熱を見せつける。そうして際立つのは物語だ。異なる人種・勢力の間の間に芽生えた2人の恋模様が物語の軸となるようにじっくりとシフトさせ、物語の下敷きが『ロミオとジュリエット』であることを浮き彫りにする。それ故に誰もが知る結末に向かう様に感情の波はピークを迎える。これぞ映画の語り部が描く『ウエスト・サイド・ストーリー』なのかと感心させられる。

その意味で、“ミュージカル” 映画だったオリジナルに比べ、本作はミュージカルを“映画”にした作品という風に見えた。オリジナルにあった非日常的な“ミュージカルらしさ”が減った分、分断と対立、そこに巻き込まれる悲恋という本作の物語はより身近な問題として観客の心にのしかかる。トランプ政権下で分断されたアメリカの縮図とも言える本作であるが、今だからこそ、60年近く前に作られた映画をリメイクする意義があったと感じざるを得ない。

Ao-aO