「61年版には負けてる」ウエスト・サイド・ストーリー 熱帯雨林さんの映画レビュー(感想・評価)
61年版には負けてる
スピルバーグが監督というのでかなり期待していて、延期の繰り返しで待ち望んでいた作品。でもオリジナル版には届かなかったと思う。比べなきゃ、今回のは星4つにしていたか。
ダンスで61年版と比べて良くなっていたと感じたのは「アメリカ」のみ。おお、昼間にしかもこういう広い街なかでやると、こんなに華やかになるのか。オリジナル版の夜のアパート屋上での「アメリカ」も良かったけれど、このダンスはこちらに圧倒される。それ以外では「アイフィールプリティ」が良い勝負だったか。ダンスの舞台を小さな洋服屋からギンベルス百貨店に移したアイデアが良かったのかも。これら2つのダンスシーン以外は、完全に61年版の勝ちだと思う。特に「クール」の今回の拳銃を取り合う場面でのものは完敗だわ。あの死者が出てしまった決闘のあとの興奮状態を鎮める、61年版の駐車場での群舞は、ウエストサイド物語の中でも白眉ではなかったか。また体育館での「マンボ」も、それぞれのグループのリーダーであるラスタンブリンとジョージチャキリスの各ソロというかペアというのかダンスが素晴らしく、単なる全体ダンスにしてしまった今回のは劣る。
歌、これは比べるのが難しい。歌のレベルは61年版が遥かに上。でもほぼすべてが吹き替えだったもんなぁ。本職歌手の吹き替えで、役者本人が歌ってない。セリフと歌で声が全く違っているので違和感大。唯一役者本人が歌ってたのが、上記「クール」と「オフィサークラプキ」じゃなかったか。全編とおして唯一コミカルな「オフィサークラプキ」は歌というより、旋律に乗せたセリフみたいなものだから本人の声で十分やってられたのではないか。それにくらべると、今回のは全部、役者本人の歌唱みたいね。マリア役などは上手いと思うが、それ以外のダンス要員が歌っているのは頑張ってるなという印象。「クール」とかね。反対にマリア役はほぼ踊ってないし。今回のアニータ役も歌ってたけど、ダンス要員だと思う。それで思い出したが、61年版でアニータだったリタモレノも吹き替えられてたわ。今回の本人の歌には味は有ったけど、練習してのあれなら吹き替えられたのは当然かも。でも、61年頃は、おそらく歌の部分は吹き替えるのが当然と考えられていて、観客もあたりまえだと思っていたのかも知れない。サントラ買うなら61年版だけど、私は本人歌唱の今回の方を評価する。
脚本と構成、これは同じように見えて違ってる。歌の順序が決闘の前後で入れ替わっていたり、最後の場面が歌なしのあっさりしたものに変わってたりで、どちらが良かったのかな。私は61年版のほうが好きだけど。またエンドロールに、町なかの落書きで出演者名が示されたり、最後の最後に「dead end」(行き止まり)の道路標識が出て映画が終わるのもしゃれていたと思う。ただ、どちらもブロードウェイ版とは順番変えて「オフィサークラプキ」を決闘前に持ってきている。これを除くと、今回のものがオリジナル舞台版に近い脚本かも。しかし、あんなコミック調を決闘の後に持ってきてた舞台版が信じられない。殺人の後だよ。
あらためて、61年版、再上映してくれないかなと思う。映画館で観たい。