「あっという間に。」ウエスト・サイド・ストーリー humさんの映画レビュー(感想・評価)
あっという間に。
冒頭から、あっという間に
音楽とダンスと色彩の世界に
惹き込まれた。
街並みには時代背景とクラシック感、生活の空気感がきめ細やかに漂い、ミュージカルを目の当たりにしてる高揚感と映画技術による一体感を味わった。
マリアの表情の豊かさ、瞳の語り、美しい歌声は話が展開するごとに深みを増し、特に仕事先のシーンでは恋を通して弾けそうな新鮮な気持ちが膨らむ様子、とめられない感情が生き生きとつたわってきた。
アニータのたくましい存在感、大人の女性の魅力。
セリフの抑揚、ダンスの美しさ…そのエッジ効果には目が釘付け。
失意に陥っても自分を見失うことがない自立した性格は登場したときからのセリフの端々にわかり憧れさえかんじる。
一方、バレンティーナの佇まいは静けさの中にある強さとやさしさと慈しみに満ちている。
その滲みでる雰囲気は世代のちがう登場人物たちが遭遇する過ちや不条理な場面に、辛い過去も生きてきた心の経験値の尊さをもってひとつの光をあて、なにかを示す。
全体をながめつつ愛をもって対峙できることの貴重さというのか。
彼女の人生を写すような手がうつしだされた時にはざわざわとした心の中のなにかをなでられた気がした。
トニーのマリアをおもう純粋で真っ直ぐな気持ちもよく表現され愛おしいほど。彼の、仲間への気持ちは罪を償い更生しようとたちなおりつつあったところにふと動きをみせるが、これこそ人生にある予想したくない現実なのかも。マリアへの愛情との対比として見守る側はつらかった。
幸せとはなにか。
信じることとはなにか。
そして、簡単にすれ違いやすい人生。
運命とは。
今もなおある民族的な問題、経済格差、人間の心の濁りや清らかさ。
監督がいま、名作をリメイクしたのは後世に伝達しておきたかったことがふんだんに詰まっている作品だからだろう。
しばらくは粋な楽曲が耳リピートするなぁー、これ。
ウエストサイドストーリーのアパート間にたなびく洗濯物ともしかしたら落ちそうな古い階段のある窓辺の風景も。