「人は憎むことも愛することもやめられない」ウエスト・サイド・ストーリー summer2009さんの映画レビュー(感想・評価)
人は憎むことも愛することもやめられない
リメイク版の本作品の方が泥臭くリアルで、むしろオリジナルの方がスタイリッシュで、エンターティメント的でした。ジョージチャキリスは無茶苦茶カッコよかったし、スマート。マリアとトニーは他の登場人物とは一線を画した世界にいるいかにもヒロインとヒーローという感じ。衣装もオリジナルは着古した感じもない普通のTシャツで、ダンスシーンのスーツもおしゃれ。リメイク版は、貧しさを感じさせるくたびれたTシャツや何日も洗ってなさそうなジーンズ、ダンスパーティもありあわせのジャケットを着ただけが精一杯のいかにも貧しさや生活の荒廃ぶりを感じさせ、リアル感ありありでした。
印象的だったのは、リフとニー。オリジナルでは、やんちゃの不良に過ぎないリフでしたが、リメイク版では、その空虚な乾いた暗い瞳は人生の絶望を感じさせ、胸が痛くなるほど。トニーも、オリジナルでは、かつてのワル仲間の世界からもはや足を洗い大人の青年へと移行しかけている好青年であったのに対し、リメイク版は、刑務所の出所を終えて、トラウマ、心の痛みを抱えたまま、自分の居場所をまだ探している繊細な危うさを持っており、かつてジェット団を作った片鱗をうかがわせました。なので、トニーにとって、マリアは「愛」という名の「希望」だったのでしょう。自分を暗い闇から救い、新しい光の世界へ導いてくれる唯一の希望。だから、決闘も必死で止めたかった。自分が新しい世界で生きられるために。希望を失わないために。その意味で、トニーが愛を誓う場面は涙が出ました。新しい世界を希求する彼の心の痛みが痛いほど感じられたから。
オリジナル版も好きでしたが、リメイク版では、広い世界があることを知らず、「分断」された世界しか見ることができず、希望も見出せない若者たちが深く抱えている絶望、その絶望にすら気づいていない彼らの愚かで哀しい生き方がいっそう浮彫にされていました。
オリジナル版の方が良かったと思うのは、最後の場面。トニーが撃たれる場面で登場するマリアの赤いドレスは争いの血の色でもあり、また、愛を知ったことで白いドレスの少女から大人の女性になったことを暗示しているようでもあり、まさに憎しみと愛を象徴しており、鮮烈でした。周囲の人間に銃を向ける彼女の叫びも、憎しみの愚かさと愛の強さを強く訴えかけ、印象的でしたが、リメイク版はややあっさりしていた感じ。それとマリアは青い服でしたが、パーティでジェット団も青系統の服で統一されていたように思うのですが。ここは赤の衣装の方が良かったと思います。なので、マイナス0.5。
最後に、この映画は、監督の前作のオマージュなんだなあと思いました。
前作で恋人をトニーに殺されるアニタを演じたのはリタ・モレノ。そのリタ・モレノがドクの店の女主人として、トニーを見守る。まるで、前作のアニタが、平和で静かな世界を願い続けているように感じました。なのに、いまだ、暴力と死はなくならないのです。そんなことを感じさせられました。
人は、いつまでも、憎むことも愛することもやめられない。それゆえ、この物語は人々の心に訴えかけるのかもしれません。そして、やはり、何と言っても、音楽の素晴らしさを改めて実感しました。