「『アメリカ』の群舞シーンは1961年版超えだと思う。主役の二人も1961年版より良い。しかしラストで腰砕け。ウルウルの眼も乾いてしまった。」ウエスト・サイド・ストーリー もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
『アメリカ』の群舞シーンは1961年版超えだと思う。主役の二人も1961年版より良い。しかしラストで腰砕け。ウルウルの眼も乾いてしまった。
①名作「ウェスト・サイド物語」をリメイクするなんて勇気があるなぁ、しかも監督がスピルバーグとは(私はスピルバーグは映画作りが巧いのが災いして子器用な監督になってしまったとあまり評価していません)どうなることやら、と思っていたら、USAでの評価は大変良く、スピルバーグ見直しの機会になるかと観に行って来ました。確かに映画としての質は1961年版に負けないとは思う。(1961年版は監督のロバート・ワイズも名匠とは言えないし共同演出ではあるけれども)。②1961年版は、それまで舞台・スタジオセットで作られていたミュージカル映画を実際の街の中で撮影した画期的なミュージカル映画だったので、今回も何か画期的な創意が有るのかと期待したが残念ながらそれはなかった。③群舞シーンはどれも素晴らしい。振り付け師の才能であるし、カメラワークの巧さのせいでもあるが、USAのミュージカルダンサーの層の厚さにはいつも感心させられる。④肌を浅黒く塗っただけでどうしてもプエルトリコ娘に見えなかった1961年版のナタリー・ウッドに比べ、母親がコロンビア人だけあってレイチェル・ゼグラーのマリアは不自然さはない。ミュージカル映画は本人が歌えるのに越したことないし。アンセル・エルゴートも、どうしても更正した元不良少年に見えなかった1961年版のリチャード・ベイカーに比べ元ストリートギャングらしい雰囲気を漂わせている。難しい振り付けの躍りはスタントにしたみたいだけど。⑤ジェット団とシャーク団との決闘の後(「死人は出さないぞ」と言っときながら出してしまった警察は何してたんでしょうね。)、恋人たちを待ち受ける苛烈な運命を知っているからこそ、ラストに向けてどう盛り上げていくかが見処なのに、畳み掛けるようにして盛り上げるというより拙速して失速した感じになってしまった。ラストだけ取って付けたように舞台風になってしまったし。これならいっそこのミュージカルの元ネタである『ロミオとジュリエット』のようにマリアがトニーの後を追う結末にした方が劇的効果は上がったかも。⑥恋人たちが辿る悲しい運命によって対立し憎み合うことの愚かしさを浮き彫りにした1961年版から60年余が過ぎても世界から不寛容、差別、対立や分断、それによる争いは減っていない。否、増えていると言っても良いかも知れない。そういう現代にこのミュージカルを甦らせるにはそれ相応の意味があるべき。しかし1961年版やオリジナルのミュージカルには無いようなメッセージは感じ取れなかった。プエリトリカンであっても白人と結婚し街の母となったヴァレンチーノの人生をミュージカルにした方が現代に寛容と融和の尊さを訴える映画になったかも知れない。