「日本語吹き替え・字幕に若干の難あり」T-34 レジェンド・オブ・ウォー Emmeriaさんの映画レビュー(感想・評価)
日本語吹き替え・字幕に若干の難あり
この映画の素晴らしさは他の方が語ってくれているので、あえて駄目な部分を書いていこうと思う。
他の言語から、日本語へと吹き替え・字幕表示するには、尺の都合、登場人物の口の動き、視聴者が理解しやすいように……と、多くの誓約があると言う。
だから、原文と日本語が異なるからと言って、それが駄目だと一概には否定しない。だが気になるものは気になるのだ。
序盤の戦車戦。
イヴシュキン(主人公)、イェーガー(敵)共に、戦闘中の部下との会話はほぼ指示だけである。
が、原文では部下を褒め、宥め、激励したりと、主人公には主人公達の、敵には敵達の間に、上司と部下の垣根を超えた、戦友としての強い信頼があることを描いている。
中盤で脱走中に、88mm対空砲(アハト・アハト)を、単なる『対空砲』と訳したのもマニアとしてはいただけない。
終盤でパンターが乗っ取られた時に、砲手が呑気に「味方を撃てません」と言っていたが、実際は「あの戦車には同期(友人)が乗っています」とそれなりに撃てない理由がある。
……とは言え、この当りの指摘は映像との違和感を感じることも無く、正直イチャモンに近い。
真に問題なのは、イヴシュキンとイェーガーの最終決戦である。
そのシーンを簡単に振り返って見よう。
お互いの戦車が対峙し、先手はイェーガー。
「殺してやる」→「貫通させる!」と言い放ち、発砲するものの、一発目はキューポラ(砲塔の上についている大きなハッチ)に命中してダメージを与えられない。
次の射撃もイェーガー。「貫徹させる!」と言いながら放った二発目は予備履帯(車体に貼り付けているキャタピラ)に命中し跳弾。やはりダメージを与えられない。
一発目、二発目を外したイェーガーは、三発目は動きを止めるために履帯を狙う。しかし、イヴシュキン達が放った一発の砲弾により、イェーガーは敗北するのであった。
という流れだ。
ここで視聴者は、観ていて少し違和感を感じなかっただろうか。
『何故、ここまで優秀な人間として描かれていたイェーガーが、最終決戦に限って砲弾を三発も外したのか?』という疑問である。
実はこれ、原文と日本語で全く逆のことを言っている。
イェーガーは「殺してやる」→「貫通させる!」ではなく、「お前は殺さない」→「だがその砲塔を破壊する(戦闘力を奪ってやる)」と言っているのだ。
それを知ると、何故一発目~三発目を外したのかも説明がつく
・一発目→砲身を狙ったものの、急激な回避運動の結果、戦車が前傾し、右上に照準がズレてキューポラに命中
・二発目→ドライバーズハッチ(操縦手がいる場所)を狙ったものの、同じく回避運動をされた結果、左に照準がズレて予備履帯に命中
・三発目→戦闘力を奪うのが難しそうなので、移動が出来なくなるように履帯を狙うも反撃される
……といった感じだ。
つまり、最初からイェーガーはイヴシュキンを殺す気は無く、あくまで生け捕りにすることを考えていいたのだろう。
本当に殺す気があるならば、わざわざ一番強固な砲塔正面を狙ったりはせず、簡単に貫通出来る上に乗員の殺傷、砲弾の誘爆の可能性がある車体のド真ん中を狙うだろう。
中盤で「お前を戦車の教導員として迎えたい」と話していたり、イヴシュキンに抱く重い感情を考えると別段おかしいことではない。
何故最終決戦のセリフを真逆に翻訳したのか、少々理解に苦しむ。
その他は文句のつけようがない、非常に良い映画である。