「「糸」とは人との絆」糸 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
「糸」とは人との絆
何度も予告を見て、感動の恋愛物語が描かれるのかなと期待して、先行上映にて鑑賞してきました。期待以上とは言いませんが、何度も目頭が熱くなり、心温まるいい作品だったと思います。
物語は、菅田将暉くん演じる漣と小松菜奈さん演じる葵の二人の恋愛を、平成史に絡めて描いています。こういうとチープな印象を受けますが、二人の恋の始まりからすれ違いを経ての再会、そして成就までを、十数年間の時間の重さを感じさせながら描いているところがとてもよかったです。
まずは序盤で、蓮と葵の中学時代の甘酸っぱい初恋が描かれます。雄大な北海道の自然をバックに、二人の子役の初々しさが映え、これだけで幸せな気持ちになります。その二人が引き裂かれる、予告で何度も見たシーンが描かれたところでやっとタイトルなのですが、すでにここで泣かされました。
その後も、菅田将暉くんが妻役の榮倉奈々さんと娘と抱き合うシーン、小松菜奈さんがカツ丼を食べるシーン、永島敏行さんが菅田将暉くんを追い返すシーンなど、何度うるうるしたかわかりません。他にも、どんぐりを投げつける、手を握る、離す、泣いている人を抱きしめるというシーンが象徴的に描かれますが、そのどれもがぐっときます。
メインストーリーはもちろん二人の恋物語で、運命の糸に導かれるように劇的な再会を果たして結ばれるわけですが、実際に描かれることの大半は、離れている間のそれぞれの人生です。漣にも葵にも、それこそ大勢の人が関わり、大きな影響を与えていきます。中でも、榮倉奈々さん、成田凌くん、山本美月さん、斎藤工さんあたりの存在は大きかったと思います。そんな人との出会いがあったからこそ、二人は青春の甘酸っぱい恋を、大人の愛として成就させることができたのではないかと思います。
ただ、ちょっと詰め込みすぎて掘り下げが甘く、もったいなく感じました。多くの人との出会いやさまざまな経験がかなり濃密であったにもかかわらず、とっ散らかることなくコンパクトに収めていたとは思います。それでも、やはりテレビドラマで1クールぐらいかけてじっくり描ければ、もっといい作品になったのではないかと思います。
この物語で描かれる糸とは、恋愛の赤い糸だけではなく、自分にまつわる多くの人との絆そのもののような気がします。誰かと結ばれた糸のおかげで、見方や考え方が変わったり、背中を押されたり、そしてそれが新たな誰かとの糸を結んでくれたり…。そうして結ばれた無数の糸が、自分の人生を織り上げてくれるのでしょう。そう考えると、これまでに出会った全ての人が本当に大切に思えてきます。