「マカロニ拳法」音楽 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
マカロニ拳法
ロトスコープによる一人でのアニメーション制作、澤部渡(スカート)楽曲提供、プロデューサー松江哲明など、自分の中の琴線の振れ具合の強さに、注目度の高い作品であった。原作は未読。
バンドを題材としたアニメは今迄も数多あり、それこそ『BECK』、ガールズバンドを流行らせた『けいおん!』等も有名だ。その中でも今作は異作にして、もしかしたらカテゴリ中、一番カロリーが高い音感純度100%の出来かもしれない仕上げだ。画風自体が特徴過ぎ、4コマ漫画に描かれるようなデザイン(目が特徴だが、全体的に“ちびまる子ちゃん”似かな)になっているので、観始めのハードルは相当低い。勿論背景もロトスコープなので、実写に水彩と色鉛筆を施したような淡く緻密なイメージはそのキャラデザインとのギャップで、かなりのアバンギャルド感を醸し出していて面白い。それぞれのキャラの性格もハッキリしていて観やすいし、何より“ヤンキー系”そのものがキャッチーで分かり易い。主人公のおとぼけ感、しかし底の見えない畏怖感みたいものが、展開の牽引を力強く印象付けさせ、物語とすればそれ程大ごとじゃないことでも、しっかり味付けを濃くしてくれる。ギターのペグも無知だからチューニングなんてのも何処吹く風のヤンキーが、その楽器が発する圧倒的な“音圧”一発で虜になるシーンは、新鮮な感動を覚える。自分もベースを担当していたが、先ずは知識修得や、楽曲のトレースばかりが先行して、その音そのものへの純粋な感動を浴びることなく、唯々コピーに奪われてしまっていた事に改めて恥じる思いにさせてくれた。本来の音の迫力、本能へのダイレクトな影響、そして古代からリズムとの同化への回帰と、その感動は一番大事なものだったのだ。それに気付かせてくれた今作の意義は大きい。それは、バンド名が似ていると言うだけで理不尽に巻き込まれる“古美術”メンバー、とりわけリーダーの心の変遷が如実に物語っている。音楽は“衝動”である。それを表現し始めた彼も、しかし自身の表現自体の薄っぺらさに自ら悟る件も綺麗に描かれている。それを本来ならば表現方法として陳腐な、同じ人物なのに台詞パートと歌唱パートでCVを替える事さえも、違和感なく飲み込める強引さにやられてしまう。起承転結がハッキリ構築されている展開も観易さの裏付けだろう。あれだけ牽引していた主人公が後半パッタリと画から消えてしまい、観客をハラハラさせる。青春ストーリーさながら、ヒロインが愛ある叱咤で、復活するその手には新しい武器w
漫画ならではの不条理さで、超絶技巧のリコーダー演奏と地獄のような迫力単調リズムとの融合に、“古美術”リーダーの感性がまたしても一皮剥かれ、少年ジャンプ的新武器、ダブルネックギターを携えての頼もしい味方の登場というマリアージュを、演出する展開は、気持の高揚を厭が応にも挙げさせる。そして演奏最後の舞い上がるジャンプのスロー演出と同時に咆吼する“岡村ちゃん”の心声の震え。クライマックスとしての漫画的演出を衒いもなくやってのけた監督の心意気に感激するばかりである。ヒロインの彼女がボーカルで参加するのかなぁというミスリードも又茶目っ気たっぷりで、その辺りも愛される作りだ。現代音楽、又はプログレ、そんな音楽の原点みたいなものも彷彿とさせる今作の凄み、しっかり堪能させて貰った。
本来、音楽は突き動かされる魂の咆吼である。