静かな雨のレビュー・感想・評価
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「昨日、焼き芋おいしかったんだよ、また食べようね」「うん」
映画「静かな雨」(中川龍太郎監督)から。
人間の記憶を題材にした作品は、数え切れないくらい観たから、
場面設定には、あまり驚くことはなかったけれど、
「60年間1日も欠かさずに日記をつけている老人」の話、
「中国の探査機が惑星を観測したのを最後に通信が途絶えた」って話。
いろいろな伏線が散りばめられていて関連づけるのが楽しかった。
「ここユキさんち?」「雨あがったんだね」のフレーズは、
何度も繰り返され、作品を思い出すにはぴったりなんだけど、
そこから会話が進展しないので、今回は、メモから外した。
私が切ないかったのは、庭で焼き芋を一緒に食べた翌日の2人の会話、
「昨日、焼き芋おいしかったんだよ、また食べようね」「うん」
2人はどんな気持ちで、この会話をしたんだろうか、と思うと、
ちょっと胸が締め付けられる思いがした。
この台詞だけで、彼女が1日前のことは覚えていない障害だとわかる。
そして、こんなコミュニケーションをこれからも続けていく覚悟を、
感じた「「昨日、(一緒に食べた)焼き芋おいしかったんだよ」であった。
わからなかったのは、主人公が「足を引きずっている理由」と
彼女が記憶障害になった理由が、事故なのか、事件なのかってこと。
原作には書かれているのかもしれないから、少し興味深い。
なぜ拘ったかというと、足を引きずる音が雑音になるし、
歩いている姿は、画面が極端に揺れるので目が疲れたから。
普通に歩ける青年ではいけなかったのか・・気になるところだな。
P.S
主人公の女性の名前は「こよみ」さん、
これって、当然、考古学とか「暦」を意識しているのかな。
静かな雨、確かな足音
私が一番好きな仲野太賀の主演ということで非常に楽しみにしていた。もちろん、左足が動かないという稀有な役柄も見事に演じられていて、やはり太賀はこのような役を演じるのがうまいと感じた。そしてもう一つの驚きは、衛藤美彩の演技がとても自然であったことだ。乃木坂46時代の彼女の存在を知っているから、多少そのような目で見てしまうかと思ったが、そんなことは全く気にならないほど自然な演技だった。後に知ることだが、この撮影は彼女が乃木坂46に在籍時に撮ったもの(現在は卒業)と知り、なお驚いた。
太賀演じる行助が左足が動かないため、常に足を引きずるように歩いている。その一歩一歩はいわば普通ではない。ただ、その一歩一歩が確かなものだったと感じる。衛藤美彩演じるこよみとの出会いから、最初は真白のキャンバスに恋色が描かれるが、こよみの事故を機に、灰色から黒色へと塗り変えられる。しかし最後は普通は塗り替えることができない黒も淡く綺麗な色に変わって描かれた。
劇中こよみは「ゆきさんの世界には私がいて、私の世界にはゆきさんがいる。けどその世界は別々のもの」と言ったが、私にはそれこそが淡い色で少し霞んでいるものの、2人の世界が少し重なったように見えた。
そして、こよみを想う行助の一歩一歩は、確かな足音を立てながら進んでいた。
50回目の“おでこにキス”
いきなりの4:3のスタンダードサイズに驚いてしまった。まさか大林監督作品を意識した?と、気になったので調べてみたら、監督曰く、左足を引きずる主人公の行助の希望もない生きづらい世の中をイメージしたとのことで、なるほど!と膝をたたいてみる。で、その希望が見えるラストでドローンを使った壮大な住宅街を描いていたわけですね~
ストーリー的には『50回目のファースト・キス』(2004、2018)や『ガチ☆ボーイ』(2007)辺りで似たような記憶障害を扱っているので、またか・・・と感じるものの、描き方が上手い。また、80分しか記憶できない『博士の愛した数式』(2006)や『50回目』に出てくる「10秒のトム」に比べればマシな方だ。とにかく日記をつけるなどして、自分の存在を証明するような方法でしか生きられないのだ。
せっかく恋人になれるかと思った矢先、こよみは事故に遭い、新しい記憶ができなくなったという展開。自分も障がい者である行助であったが、入院先でこよみの母親(なんと河瀨直美ですよ!あん繋がりか?)にも頼まれ、退院後は彼女を自分の家に引っ越しさせるのだ。この選択は大正解だった。でなきゃ、毎日こよみの住むアパートまで行き、日課となる説明も面倒だったろう。この思い切った行動も徐々に辛いものとなっていくのだ。
たい焼き、ブロッコリー、リスボン、ザリガニ、教授(でんでん)の父親の日記など、小ネタがいい伏線となっていて、特にリスボンのエピソードはペットを飼ってる人には泣ける内容。ブロッコリーに関しては、食べられるようになれよ!と、子供じみたところにイラっとくるかもしれません。
それよりも気になったのが、かつての恋人(萩原聖人)の存在。行助のことは恋人と認識できないのに、過去の恋人のことはしっかり覚えていることだ。これは克服しなければならないのだろうけど、嫉妬心は常に湧き出てくるものだ。
また、描かれてはいないけど、こよみは相当なパチンカーだったに違いない。それがどうしてパチンコ屋の駐車場の片隅で営業することになったのだろう?パチプロなんて不安定だろうけど、たい焼き屋も収入は少なそう。『あん』(2015)の店くらいに流行ってればいいんだろうけど、営業時間も短そうだし、難しいでしょうね。
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