「記憶」静かな雨 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
記憶
昔、僕の友人が、レクレーション中に、誤って頭を強く打って、その前の二日くらいの記憶が無くなったことがある。
どうやってそこに行ったのか、誰とそこに行ったのか。
消失してしまったのだ。
その時、記憶のメカニズムについて少し本を読んだ。
短期記憶が、海馬を経て、大脳皮質にたどり着き、長い長い記憶になるのだ。
僕の友人は、頭を強く打って、海馬にたどり着く前に、記憶の電子が脳から放電してしまったのだ。
それだけでも、僕にとっては衝撃だったが、この映画のストーリーはなんか胸が締め付けられる。
行助とこよみの純愛の行末に不安を感じてしまったからだろうか。
この作品では、行助も、こよみも含めて登場人物の背景はほぼ語られない。
こよみの記憶に沿っているのだ。
人は人の何を好きになるのだろうか。
今だろうか。
過去だろうか。
人そのものだろうか。
取り巻くものだろうか。
行助やこよみに自分自身のことを重ねて切なくなる。
それに、ちょっと寓話のような感覚にも包まれる。
ただ、最近、認知症の初期症状が出た母親のことを思い出し、これは、こよみのような感じではないのかと、ふと思い、更に切なくなる。
短期記憶を司る脳の領域の血流が悪くなってしまったのだ。
でも、記憶って、脳だけではないような気もする。
映画でも腸の話は出てくるが、自分の手も勝手にキーボードの上を動いてるように感じることがある。
猫背を直そうと、一定の姿勢でウォーキングを繰り返したら、数年後にはそれじゃないと歩きづらくなった。
当然、猫背も直った。
まあ、こじつけであることは指摘されるまでもなく分かっているつもりだが、そう思って、行助とこよみには生きていってほしい気がするのだ。
きっと、60冊もの日記より重要なものがあるように思うのは僕だけではないだろう。
前向きだったら、背景なんて、大きな問題じゃない気がするのだ。