「ポップな明るさと鋭い洞察」ブラインドスポッティング しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
ポップな明るさと鋭い洞察
見終わって暫く、眉間に皺を寄せて、ウーン…と唸ってしまった。
人種差別を扱った作品は多いが、本作は、こじんまりとしていながら、深く鋭く人間の本質に切り込んでいる。痛い所を突かれ、ハッと我が身を振り返させる。
黒人側の恐怖や怒りだけでなく、白人側の痛みや困惑をも拾い上げているのが、特に秀逸に思える。
差別問題の根の深さ、扱いの難しさを、誤魔化し無く彫り出す。
タイトルは、作中に出てくるだまし絵を表現した造語から。向かい合う二人の顔と一つの壺、どちらの見方もできるだまし絵。片側しか見えないなら、もう一方は盲点。でも教われば、違った見方ができるだろう?いや、脳の働きはそんなに容易ではない。反射的なレベルの印象や判断は、簡単に変えられるものではない、と。
差別や対立、他人への評価といったものの本質を言い当てている気がする。差別はいけない事、公平に、誠実に、善良に。問われれば理性が倫理的正解を導き出す。しかし、咄嗟に抱く好悪や先入観は強固で露骨だ。自らの心の奥底に、その根が深く絡み付いてはいないか。
粗野で粗暴で無知な黒人という色眼鏡。尊大で気取りやで鼻持ちならない白人という色眼鏡。
俺達の気持ちなんて解るもんか。そりゃ解らないよ、他人になる事などできないんだから。けれど、それではいつになっても相手を理解できない。
どうすれば。向き合い、探り、考えながら、少しずつ距離を縮めていくしかないんだろう。しかしそれには、傷つき、傷つけられる痛みが不可避だ。その覚悟と勇気が、お前にはあるかい?
そう問い掛けられているようで、弱虫の私は、尻込みしながら、ウーン、世界ってムツカシイ…、と唸ってしまうのだった。
主題とは少しずれるかもしれないが、銃社会についても、この作品は問いを投げ掛けているように思う。
自衛の為、家族を守る為。解るけど、容易に殺傷力のある道具が手に入る環境で、事故にしろ故意にしろ、そりゃ人死にが起こらん訳がないよなぁ…。
では、身の危険に曝された時、抗う術もなく倒れるのが善か。身を守る権利は、反撃の是非は。恐怖が武器を取る最大の理由なら、一度許せばもはや際限はないであろうが。
こちらの問いにも、現状のアメリカ社会では、容易に答えは出まい。ウーン、でもでも…と唸りが漏れるばかりだ。
提示される現実は難題だが、決して後味は悪くない。ヒリつくような恐怖感に追い詰められ、どうなってしまうのかと息を飲みはするが、救いのない描き方はされない。軽快なラップのリズムや繕わない軽口が、重い内容を楽しく彩り、下町の日常、平凡でかけがえない人間関係が、舞台を身近な距離感に引き寄せている。
テーマの取り上げ方や切り口はとても好きなのだが、ビジュアル面の表現の仕方は荒削りで、あまり好みではなかった。
舞台に会わせて敢えてとの可能性もあるし、ポップで現代的という見方もできる。あくまで個人的な嗜好の上では、です。