「色々詰め込みすぎて全部薄まってる・・・」マー サイコパスの狂気の地下室 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
色々詰め込みすぎて全部薄まってる・・・
あの”ゲットアウト”らを制作した会社によるホラー映画ということで、期待をして鑑賞・・・・したのですが、ちょっと物足りない作品でした。ちょうど先週に『アス』を鑑賞していたものですから、余計にと言うか・・・。
物語は田舎に越してきた飽きない美人ことマギーが、所謂準不良グループたちと一緒に青春を送る対象年齢高めのスタンドバイミー・・・ではなく、10代の少年少女たちと一緒にはっちゃけるのが趣味の変人女「スー」も加わった、異色の青春ラブ(意味深)ストーリー。
意図の見えないスーの行動と、見え隠れする不穏な一面。いずれスーが変貌を遂げ、映画”ミザリー”のような展開になるのを今か今かと待ちわびていた自分が居ました。
前半までは。
蓋を開けて後半。案の定スイッチの入ったスーが行動を開始するのですが、なんか爆発しきれていない感。クライマックスも弱く、ホラー映画に限らず彼女のような濃い悪役には定番のラストスタンドも無し。ナイフでぶっ刺されてそのままフェードアウトします(笑)。うーん。
まず、本作タイトルから間違っていて、彼女は根っからのサイコパスであるとか、そういう類のやつではありません。これは作中でも丁寧に描かれますが、彼女は所謂陰キャで、辛い青春時代を送っていた過去があります。
本作ではその復讐が行われるわけなのですが、ならマギーたちはあんまり関係ないじゃん!というモヤモヤ感も浮上して、変な感じ。更にはマギーファミリーの過去もあまり語られないので、尚更マギーとその母親サイドが蚊帳の外感有りまくりです!(一応彼らの親世代が原因なんですが、マギーのボーイフレンドサイド以外は外野も同然なので・・)
そもそも本作バランスも悪いです。本作はティーンエージャーが多く登場するタイプのホラー映画作品で、どちらかと言うと勧善懲悪的な、子供たちが悪党(スー)に立ち向かっていくような、そういう意味での青春ホラー的な側面もあるわけです。
なのに、そもそも味方サイドのキャラクターたち全員に有意義な役割が与えられていません。普通、これだけ居たら全員に見せ場があると思うんですが、スーをみんなで退治するだとか、誰かの機転で誰かが窮地から助かるだとか、そういうのが無いんです。要するに、マギーたち男女5人組に仲間感を感じられないのです。むしろ、物語の終盤でマギーが序盤に恩を売った”スーの娘”が助けてくれたりします。
なら、マギーとスーが何か因縁深いかと言われるとそうでもなく、むしろ因縁深いのはマギーのボーイフレンドの方だったりするので、こちらもモヤモヤ(笑)。タイマン勝負させる説得力みたいなのが弱いんですよね~。構図としてはスーの恋敵ということなんですけど、その構図によって余計にスーの小物感が出ています。
そして、予告編でも強調されていたスーによる登場人物たちの身辺調査の件。こちらは物語の序盤からFacebookを漁ったりと、スーの少しヤバそうな一面を垣間見れるシーンだったのですが・・・結局この辺の身辺調査がホラー的に繋がってくることは無かった。
マギーの母親に会ったのはマギーに対する脅しでしかなかったし、結局かつてのプレイボーイに復讐しただけ。そもそも物語の舞台は田舎なので、そんなところの動物病院勤務なら顔も知られてそうなんですけどね(笑)。
一見どこにでも居るようなおばさんがどんどん豹変していく!みたいなホラーを作りたかったんでしょうが、作品がスーの視点でも進んでいくが故に、その動機がリアルで切実なんだけども、ホラー映画の悪役としては小物臭さを感じる構成になっていました。
もっとミザリー的なホラーを期待していた身としましては、期待を裏切られた感じにならざる得なかったのは事実。
まあ、娘を青春させまいと意図的に病気にして監禁していた点なんかはまさに”サイコパス”なところだったんですが、そういうところも含めまして色々と付き萩な感じが、ちょっと邦画っぽくもあったり(笑)。
結局、スーの闇の部分は色々引っ括めて学生時代の”痛み”が原因なわけですし、今回の事件はそれがトリガーになったと考えれば、元からちょっとヤバい奴設定は要らなかったような気もします。むしろ、全然普通の人間だった人が過去のトラウマを刺激されて・・・の方が良かったでしょう。
最後の山場もいつの間にかみんな目覚めて首輪も簡単に外れるしスーも何か空気読んで撤退するしで、邦画特有の『舞台感』をアメリカ映画で感じたり(笑)。
誰にでもある苦痛な過去を刺激されて~とか、どこにでも居そうなおばさんが子供を集めて~みたいな、色々な要素をブチ込んだ結果全てが薄まった幕の内弁当のような映画でした。出し合ったアイデアを強引に繋げているようにも感じます。
微妙にB級な映画でしたね、はい。