「世界の裏側で… 少女たちの苦難」朝が来る Marikoさんの映画レビュー(感想・評価)
世界の裏側で… 少女たちの苦難
いい映画です。
一昨年映画館で観た時よりもWOWOWでの2回目の今回の方がすごく心に響きました。
…なぜだろう?
ストーリーは、子宝に恵まれなかったある夫婦が、事情があって産んでも育てられない親から子供を貰い受ける養子縁組制度を利用して、男の赤ちゃんを迎え入れ家族となるが、産みの親が6年後に現れて… という話。
夫婦の事情、そして13才でボーイフレンドの子供を妊娠してしまった女の子の事情を丁寧に描きながら、『妊婦の駆け込み寺』とも言える広島のNPO法人【ベビーバトン】の存在が軸となる。
その施設長を、浅田美代子があたたかく演じ、夫婦役は井浦新と永作博美。
ドキュメンタリーのようなカメラタッチで淡々と進む話に、夫婦や女の子の回顧録が絡み、妊娠・出産を機に人生がガラリと変わってしまう女の子を蒔田彩珠(まきたあじゅ)。痛々しくも時にみずみずしく演じる。上手い。
世間を見回すと
この夫婦に子供がいたら、最高なのに。
絶対いい親になれるのに。子供は幸せなのに。
という夫婦に子供ができなかったりする。
反対に、ろくでもない夫婦に次々と子供が産まれたり…
「子供は親を選べない』とは言うけれど
神様は時に残酷だ。
この夫婦には愛があり、良識があり、責任感もあり、と同時に産みの母親に対しても敬意を払い思いやる余裕がある。
果たしてこんなに強く優しくいられる? って
永作博美を見て感じた。尊敬に値する。
突然現れて『私が産んだ子供を返して欲しい。無理なら、お金をください』と言われて、動揺するも
相手の目を真っ直ぐに見て、息子への愛を示し、突き返し、後に人違いを詫び、涙する。
息子にもちゃんと会わせてあげるんだね…
そんな妻を優しく、強くしっかりと支える夫を井浦新さんがごくナチュラルに演じてて、とても素敵。
不妊という困難を共に乗り越えた2人は、互いに信頼し合い、絆が強い。なんか羨ましい。
そして何よりも、ベビーバトンの浅田美代子が素晴らしい。
看護師である彼女自身も子宝に恵まれず、過去に思うことがある様子。『不幸な子供を少しでも減らしたい一心で』この施設を広島・瀬戸内の離島に設立。
ベビーバトンに大きなお腹で現れる少女たちを娘のように包み込み、優しく支え、励ます。束の間であっても、ちゃんと受け入れて貰えるあたたかい場所がある事で、どれほど少女たちが救われることか。
牡蠣筏の浮かぶ瀬戸内海の優しい波音が、それぞれ色んな事情を抱え、傷つき、家族と離れ、見知らぬ土地で出産に挑む少女たちを穏やかに癒し、少女たちはほんの少しずつ心の平穏を取り戻していく。
でも、産んだあとはすぐに赤ん坊とお別れ…
「愛情がわかない。生まれた子供の顔を見るつもりもない」と言い放つ子もいれば、この主人公のようにお腹の子にあだ名をつけ、慈しみ、産まれた我が子を愛おしく抱きしめる子もいる。切ないですね。
彼女たちに共通しているのは、複雑な家庭の事情で、たいてい、母親との関係が気薄で、この少女の場合はまるで厄介ごとそのものといった風に娘の妊娠を責めて、ひた隠し、世間体ばかり気にして、辛くあたる。
娘が広島から帰宅した時など、本当にきつくて、なんとも言えない悲しい気持ちになった。
この映画を2回観てあらためて感じたことは
苦難と向き合うことの大切さ。
この夫婦も、少女も、最後にはちゃんと現実をしっかりと受け止め、真摯に向き合うことで、救われたように思う。
逃げずに、目を背けずに。
そうすることで、また一歩前に進めた気がする。
生きていくには、やはり人と支え合うことと
「希望」を持てる環境がいるんですよね。
そういう意味で、世間の裏側で人知れず子供を産んでいる少女たちの存在を知ることができて良かったと思う。この映画のおかげ。