「養親がどうか関係なく立派な母親」朝が来る movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
養親がどうか関係なく立派な母親
特別養子縁組を通して、中学生で初潮前に妊娠し出産した産みの親ひかりと、その子供を養親として受け取り大切に育ててきた夫婦を描く。
固定観念が強い実家で居心地の良さを感じられず鬱々としたひかりが、告白してくれた同級生との間には確かに愛を感じ、不慮の妊娠だが、初めて大好きになった人との間にできた、愛の結晶ともいうべき子。ずっと一緒と言ってくれた言葉をひかりは大切にしているのに、相手は妊娠を知るなり謝ったあとはそれまでと同じ人生を歩んでいる。一瞬で失ってしまったひと筋の光とも言うべき愛を、授かった子供に捧げたら良いが、中学生で周りはその妊娠を事故のように扱い、なかったことにしてひかりを高校受験で軌道修正させようとする。ベビーバトンという特別養子縁組の架け橋となる団体の施設にひっそりと産みに行き、出産するが、風俗での妊娠や産まれる前から大切だと思えない妊娠と違い、ひかりには胎児への思い入れがあった。
だから、産後もとの生活に戻り何事もなかったかのようには過ごせず、無気力に。
家を出て、居心地が良かったベビーバトンの施設に戻るも団体は終了予定で、片付け中の段ボールの中に我が子のファイルを見つけ養親の連絡先や住所を知る。
とりあえず広島を出て横浜で新聞配達のバイトをしてどうにか生計をたて、バイトで出会う人間関係で過ごすうち、身なりはすっかり不良のよう。どちらかと言うと未来への希望あふれる優等生だったのに、まるでレディースのような別人に。中身は全く変わっていないのに。
お腹でちびたんと呼ばれていた、息子あさとに逢いたくて永作博美と井浦新演じる育ての親夫婦のもとへ。
職場結婚しダブルインカムで不妊治療をするも打ち切り、特別養子縁組で子供を引き取るために仕事を辞めた夫婦で、タワマン30階という恵まれた生活。
あさとの気持ちを大事にしてくれる、申し分ない優しい養育環境。
そこに別人のように変わったひかりが乗り込むが、夫婦はお金目当てで的外れな脅迫をしてきた別人だと思い、あさとを守るためぴしゃりと要求を跳ね除ける。
あさとがジャングルジムで友達を落とした疑惑をかけられた時には、あさと本人がやっていないと話しているので謝らず煮え切らない対応をした母が、今回は産みの親でもないよくわからない別人にゆすられてたまるかと、「ひかりさんからの手紙は大切に読み聞かせしています」「あなたのような人に関わって欲しくない」と言い切り、「お引き取りください」と静かに怒りをぶつける演技が母親そのもので素敵。感情をあらわにする主観の怒り方ではなく、養親という立場ながら実子として子供を守り育てている母親像がしっかり伝わってきた。
結局、ひかりの職場から連絡を受けた警察が後から訪ねてきて、ひかり本人が訪ねてきていたとわかるのだが、そこで出産直後から訪ねてくるまでのひかりの人生や心情変化を察さずに、「産みの親片倉ひかり像」を固定してしまっていた事に気付き、後悔と申し訳なさに溢れ、ひかりを探しに行く母親。ひかりと5歳になったあさとは対面を果たす。エンドロールで初めてフルで流れる「あさとひかり」と、あさとの、「会いたかった」。
子供にとっては、安心できる環境で大切に育てられるのが1番。産みの親が難しければゆとりのある養親でも良い。でも、産みの親にも会いたくなるのも事実。
そして、養親が親になっていくように、産みの親もまた、産んだ時から子供の年齢分、変化している。
特別養子縁組制度では産みの親と子供との親子関係は削除されるため、産みの親は「なかったこと」にされがちだが、確かに子供をお腹で育てた存在がいる。
それを伝えるため、蒔田亜珠扮するひかりにスポットが当たりがちだが、夫の無精子症が原因で不妊治療に至り、夫の気持ちのために治療を打ち切り、産めたかもしれないのに産む経験を諦め、養親となった母親の気持ちを想像すると、永作博美演じる母親が人徳をいかに積んでいるかがわかる。その乗り越えた悲しみと心豊かさがあるから、ひかりにもまっすぐ向き合ってくれたのだろう。一筋縄ではいかないであろう養親のあり方に、対応できる人間性でないと、特別養子縁組は難しいと感じた。
妊娠の可能性にも、特別養子縁組制度の中身にも、知識が欠けているひかりだが、子を想う母としての気持ちはあり、こんな自分が関わってはいけないと納得し、「申し訳ありません。私はあの子の母親ではありません。」と頭を下げる場面は、産みの親として子の幸せを願う最大限の母性が詰まっていた。愛しているから引く勇気。
家族は心中を理解してくれず、交際相手の子の逃げを受け止め、産んだばかりの唯一の愛の繋がりとも言うべき子を養子に出し、やっと友達ができたかと思えば借金を被らされ、「なんで私がこんな目に」。本当にその通りで、見ていても苦しい。でもそこに闇金が返した一言、「バカだからじゃねぇの」。真をついている、その通り。
不遇な境遇で太刀打ちできるのは知識と頭脳。
SOSをあげて調べればきっと救済策はある。
勉強だ進学だと子供を駆り立てる前に、子供の声を聞く姿勢こそ、子供が困った時に周りに助けを求める力を育て、自発性に繋がると感じた。
ひかりは実母に育てられたのに苦しんでいる。
あさとの友達の母親は実母でありながら他の親に金銭要求。
実母も養親も関係なく、良い母も良くない母もいて、養親の方が親として適切な事もある。
世の理解が進めば良いなと思った。