「ドキュメント的な描写が好みの分かれる所ではある作品です。」朝が来る 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
ドキュメント的な描写が好みの分かれる所ではある作品です。
以前から興味のあった作品で、ポスタービジュアルのやさぐれた感じの茶髪の女性の後ろ姿が何処かホラーチックでどんな内容だろうと興味津々で観賞しました。
で、感想はと言うと、ホラーでは無かったw
観応えはありますが、重い。またどんよりする。
ドキュメント形式の描写が余計に重さをリアルに感じる拍車をかけます。
永作博美さんと井浦新さんが演じる夫婦が抱える問題に、子供を出産するが、育てることを断念せざるおえない女の子のお話なんですが、どうにも切ない。
育ての親の苦悩もさる事ながら、産みの親となる少女の苦悩と葛藤、不幸が重いんですよね。
また育ての親の物語かと思えば、どちらかと言うと産みの親の女の子の物語の側面が強い。
割合で言えば6:4ぐらいかな。
冒頭から何処か怪しげな雰囲気が漂い、幸せそうな家庭環境が余計にその雰囲気を増幅させる。
幸せの家庭を壊すのはいつも他愛もない事からが世の常ではあるが、この作品は割といろんなことが「伏線か?」と思わせといてスカされるw
その辺りが結構絶妙ですが、回り道と言えば回り道ですが、そういう伏線張りは嫌いじゃ無い。
でもそれが多いとちょっと中弛みを感じます。
伏線張りは…少し多いかな。
インタビュー形式的な描写で「ザ・ノンフィクション」みたいな感じで、それが結構多い。全体のバランスから考えるとちょっと多すぎる感じがして、肝心な部分の描写が少なくなってる気がします。
社会派ミステリーと言うジャンルに位置付けされてますが、ミステリーとしての側面を過剰に醸し出している所も感じる。
永作博美さんと井浦新さんを前にした茶髪のやさぐれた感じのポスターが正にそれ。
でも、そこになんとなく牽かれて観賞したので、ここは好みの分かれる所でしょうか?
また、特別養子縁組の制度について描かれてますが、ドキュメント性を出すのであれば、もう少し金銭的な事を含めて詳細を描いても良かったのではと思います。
永作さんと井浦さんの演技力は今更ながらに言わずもがななんですが、ひかり役の蒔田彩珠さんが上手い。
「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の加代とは全然違う役柄ですが、最初気付かなかった。
それぐらい全然違いますが上手いし、良い役者さんになりました。
そんな彼女が演じるひかりは不器用に挫折もしながら、それでもなんとか踏み止まろうとする姿が健気。
いろんな事が彼女に降りかかり、その事でゆっくりと転がる様に落ちていく。
彼女が悪くない訳では無いんですが、そんな綻びから付け込まれる様にして、綻びが大きくなっていく。
母親のちょっとした無関心と見栄が余計に腹立ちますがw、感情が優先して、そこから逃げ出したい気持ちも凄く分かる。
様々な人に出会い、優しさに触れ、いろんな事にも傷付く。
それが人生だと言えば、そうなのかも知れないが、それをまだ10代の女の子に背負わすのは観ていても酷。
その辺りを丹念に描いています。
弱い者が様々な事に叩かれる姿は正直見たくないし、映画の中とは言え、立ち直ってもらいたい。
蒔田彩珠さんの上手さが際立ちます。
子供を授かりたくても授かれない苦悩も切ないし、そこに特別養子縁組に至る決断も切ない。
でも、養子とした子供に目一杯の愛情を注いでいる姿が微笑ましい。
意図せず授かった子供であり、周囲との協調を図る為、泣く泣くで手放したが、そこから転がる様に落ちていくが、唯一の救いは悪になれなかった事。
その事がラストにも生きてきます。
重い作品で、中々の尺ですが、見応えもあります。
ですが、ドキュメント的な描写は好みの分かれる所。
興味があれば如何でしょうか?