「ザワザワ」朝が来る U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
ザワザワ
胸の奥がざわつく。
眠らせてた何かをハンマーで揺さぶられる。
刺さる。刺される。
この作品を必要とする誰かはきっといると思う。
出会って欲しいと心底思う。
エンドロールの最後の最後まで席を立たないでいて欲しい。俺は立てなかった人だけど、立てずに最後まで居れて良かったと思う。
監督の視点にはいつも驚かされる。
「朝が来る」という原作に監督は出会うべくして出会ったのではないかと思う。
原作は未読ながら、辻村深月さんとのシンクロ率はかなり高いのではないかと推測する。原作が嫉妬する程の精度を見たような気がする。
おそらくならば、全編に渡り多用されるUPカットのせいなのかと思う。
その人物に寄り添うかのようなアングルが、映画ではなく自分達の隣人としての視点を与えてくれてたのではないかと。
その多用されるUPに一切怯まない演者達にも敬意を表したい。永作さんは本当に素晴らしい女優さんだと思う。今作の役に対し、アカデミー主演女優賞を進呈したいと思うのだけれど、それすら陳腐なものだと思えてしまう。
途中、ドキュメンタリーなのかと思うシーンもありで…いや、ドキュメンタリーな部分もあるのだろうけど、そうではない部分では役者を起用し、台詞を喋らせたのだとしたら、監督は一体どんな魔法を使ったのだろうか?
いや…子役にしたってそうだ。
どんな役者であってもカメラに意識がなさ過ぎる。
台詞の輪郭が恐ろしい程ボヤけてる。
撮影現場はどんな空気感なのだろうか?
実景のカットや鹿のカットにさえ意図を感じ、まるで人としての本能さえも演出に使われてるかのようだった。
それ程までに、人への造詣が深いという事なのかもしれない。
自分も人の親であるから、ついつい親としての視点を思ってしまう。
永作さんの強さにあてられてしまう。
子供を守り背負うというのは生半可な事ではないのだと改めて考える。
それと同時に、どんな人間にも親はいるのだなと。
あなたを産んで育てた人がいる。
それは当たり前の事ではあるのだけれど、きっと簡単な事ではないと思うんだ。
その簡単ではない事に報いる為にも、他者を軽んじるような事をしてはいけないのだろうと思う。
自分を決して卑下してはいけないような気がする。
俺はこの作品に出会えて良かった。
この作品によって救われるであろう誰かが、ちゃんと出会える事を祈ってやまない。
他者への労りを常に持ち続けたいと思う。