劇場公開日 2020年10月23日

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「また反省させられました」朝が来る シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0また反省させられました

2020年11月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ストーリー説明・ネタバレなし、原作未読

河瀬直美監督作品は『あん』以来の鑑賞だったと思います。
今年はコロナ騒動で映画鑑賞が凄く減ったにも関わらず、観る映画観る映画、殆ど満足していて、特に邦画は質が高い作品ばかりで嬉しくなりますね。今、日本映画業界のガラパゴス化が言われていますが、それで映画の質が上がるなら、例え迫力あるスペクタル映画やアクション映画が作れなくても、例え洗練されたミュージカル映画が作れなくても、日本映画はそれで突き進めば良い様な気がします。

本作ですが、今までの河瀬監督の作品群と比べると是枝監督かと思う様な作風で、とても分かりやすい作品でした。
河瀬監督と是枝監督って扱う題材やテーマが似ている感じですが見せ方は微妙に違い、河瀬監督は映像にドラマを乗せるような感じであり、是枝監督は逆に物語に映像を乗せている感じで、観客にとっては後者の方が理解しやすいと思います。
で本作の場合、才気が先走り観客に対しての気配りの希薄さはあまり感じなかったし、物語自体も分かりやすかったですね。それは『あん』くらいから見られる傾向で、樹木希林という役者からの影響が大きくあったのかも知れませんね。本作ではテーマも興味深いものでしたが、物語にも十分引き込まれました。

それと『星の子』の感想でも書いたのですが、自分自身を反省する様なテーマの作品が多くなってきた様に感じます。本作でもそうでしたが、これは歳をとり頭が硬くなってきたせいもあるのかも知れませんが、今まで嫌悪していた行いを己自身が行っていることの発見ほど応えることはありませんからね。
この作品でも世間一般の浅はかな先入観が、自分の中にも確実に存在している事を気付かせてくれました。
映画の冒頭ではこの作品の主人公は永作博美だと思っていたら、ひかり役の蒔田彩珠が本作の主人公だと気付き、彼女に対する私の印象がまさに“世間の目”的な本質とはかけ離れた、フォーマット化さた行動だけでの未熟さ愚かさだったのですが、これは映画的な誘導というか印象操作もあったとは思います。そう思わされたこと自体が物語の終盤にになって強く自分の心に突き刺さりました。
物語の中で、半グレの様な連中に友達の保証人にされて恫喝されたシーンで(正確な台詞は忘れましたが)「何故、私が……」の答えに対し半グレ達から「バカだから…」という返事をされるシーンがありましたが、これは今のSNS時代の象徴的な言葉でもあり、殆どの人間が他者(世間)に向かって無意識に発している総称の様に感じられ、私も当然その1人であったことを思い知らされました。(『あん』の時のハンセン病に対する世間の対応と同一の人間心理だと思います。)
(SNS社会では自分以外の全ての他者(肉親/他人、強者/弱者、賢者/愚者関係なく)一個の人間としてではなく“バカ”という総称で呼ぶ傾向を強く感じてしまうし、自分もその例外ではない)
この作品の結末が悲劇となるか?希望となるか?、観客はこの二つの結末の予兆を作中に与えられるのですが、観客はどちらの結末を想起してしまうのか?、人間をちゃんと一個の人間として見ることの難しさをこの作品は伝えてくれました。この作品に登場する全ての人間に(あの半グレ達でさへ)記号的な役柄はいないと、捉えられるかどうかを試された様な気がします。

シューテツ