劇場公開日 2020年10月23日

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「他人の生き方の背景を想像する力」朝が来る ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0他人の生き方の背景を想像する力

2020年10月30日
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鑑賞方法:映画館

 養子の産みの親を名乗る人間が突然訪ねてきて「子を返せ、駄目なら金をくれ」と言う。そこからトラブルの傷口が広がってゆくのか…ついそんな漠然とした想像をしたが、その通りには進まない物語だった。
 そこかしこにミスリードを呼ぶ描写が仕掛けられている。それも入り組んだ謎解きのパーツではなく、観客の「人を見る目」の先入観を利用した仕掛けだ。
 前半は不妊治療を経て養子を迎えた栗原夫妻の物語。結婚から夫の無精子症の判明、養子受け入れに至るまでの過去の心の揺れが丁寧に描かれる。現在パートで息子の幼稚園でのちょっとした不穏な出来事の描写、茶髪にスカジャン、派手なネイルといった出で立ちで生みの親を名乗る女性。血の繋がりのない子への信頼はこういう時揺らぐのか、やさぐれた産みの親の登場でここから揉めるかも知れないなどと、いつの間にか栗原夫妻の視点で不安を感じ、環境や見た目から早めのジャッジを下そうとする自分がいた。
 後半で別の視点から物語が紡がれ、序盤の謎が少しずつ明かされてゆく。真実が見えてくるにつれ、ただ寂しさや哀しさ、やるせなさが胸に迫る。ここでもつい彼女の生活を狂わせた悪人を探したくなったが、強い悪意を持って彼女を追い込んだ人間はいなかった。彼女と彼女に関わった人達の幼さや鈍感さ、不器用さなどの積み重ね。罪深いと言えるものもあるが、この作品は特定の誰かを糾弾する作りにはなっていない。
 人が何故その生き方を選ぶに至ったのか。頭ごなしに否定する前にひと呼吸置き、今のその人を作った過去の存在に思いを馳せること。その人の言葉の意味、発した理由を考えること。結果的に相手を理解しきれなくても、そのちょっとした想像力が緩衝材になって社会を少し柔らかくしていくのかも知れない。あなたはそんな想像力を持てていますか?そんな問いかけをされている気がした。
 実際の人生においては防衛本能が働くので、そのような想像力のアンテナは適時意図して働かせないと鈍りがちなものだとも思う。その辺の難しさも考えさせられた。

ニコ