劇場公開日 2020年10月23日

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「True Mothers」朝が来る ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5True Mothers

2020年10月31日
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鑑賞方法:映画館

河瀬直美監督の巧みなストーリーテリング力に驚かされた。『殯の森』でこの監督を知った私にとっては、叙事的で独特な性を介した死生観こそがこの監督の魅力だと思っていたからだ。しかし、本作では2人の母の姿や感情を徐々に炙り出していく丁寧な物語運びで我々の目をスクリーンに釘付けにし、産みの母と育ての母が抱えるそれぞれの葛藤を描いていく。

入れ子式の物語構成は一歩間違えれば、どちらか一方に肩入れをしてしまうリスクを孕んでいるものの、絶妙なバランスをとってこの危うい橋を渡り切っていく。いや、橋を渡るというよりは、両端に立った2人の母を橋の中央に向かって、ゆっくりと丁寧に歩み寄せると言った方が適切かもしれない。それぞれが我が子という決してブレない一本の軸の上に立っているからこそ、互いの母に感情移入せざるを得ない。これこそが本作の強みだ。

実際に養子縁組によって子供を授かった人々の声をドキュメンタリー調に織り交ぜることで物語に強いリアリティを与える一方、愛し合う、命を紡ぐという映画ならではの眩いまでの映像美が、それぞれの母親が抱く感情の輪郭をより明確になぞっていく。誰が悪い訳でもない、誰も責められない、だからこその苦悩が複雑な感情を持って観る者の胸に突き刺さってくる。

近年世界的にも家族の形を問う作品が増えつつあるが、家族の多様性と普遍性の両面を持って、命の繋ぎ方を問うていく本作はきっと多くの人の記憶に残ることであろう。『朝が来る』というタイトルの意味はラストシーンが物語ってくれるが、本作の英語版のタイトルは“True Mothers”。何分にも、私は英語版のタイトルの方が気に入っている。母(Mother)が複数形である点にも是非注目してご覧頂きたい。

Ao-aO