「ダークで奇妙でハートフル」鉄道運転士の花束 しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
ダークで奇妙でハートフル
タイトルだけ見て、『ぽっぽや』みたいなハートフル映画かと思っていた。あらすじ確認してから見に行って良かった!危ない所だった。
強烈なブラックユーモア。運転士と轢死の話である。
冒頭からガツンと殴られる。主人公の老運転士が、轢殺事故後のカウンセリングを受ける。カウンセラーが気に食わない運転士は、殊更グロテスクに事故死体の様子を語る。反対にカウンセラーがパニック発作を起こし、主人公が介抱する羽目になる。外連味たっぷりに投げつけられる『死』と『殺人』の衝撃と、にも関わらず、専門家と患者の反転という滑稽な事態に誘われる苦笑。分類し辛い思考状態に追いやられ、あれあれ、これは胸糞悪いか面白がれるか、紙一重かも知れないぞ?と、少し身構える。
『死』と『殺人』は常につきまとう。運転士達はそれを笑いに紛らして心の傷と折り合いをつけ、職務をつづける。車庫に並んだ廃車両に住む隣人達。皆が互いの身内を轢き、轢かれているという異常事態。中盤加速度的に病んでいく登場人物。恐怖と不安、後悔と喪失の痛み。
ところが一方、人々の愛情は深く、逞しく豊かに人生を生き抜いている。気難しく頑固な老運転士の拾い子への愛情、孤児の少年の主人公への憧憬。家族のように集い思いやる隣人達、老いらくの恋心。
線路の上で出会った老運転士と少年は、最後に再び逆さ絵のように線路上で向き合い、円環は閉じらる。
数刻前までの不穏さを忘れ去ったかのように、暖かく寄り添い列車に揺られ、つかの間の休養に向かう人々。
…あれ?終わってみれば、思いの外ホッコリと悪くない気分に…?
切り口も、感触も、大変不思議な作品である。
ブラック極まりないネタなのに、あまり陰惨さはない。現実の容赦なさと併せ、人間の弱さ、強さ、哀しさ、いとおしさも描かれている。老人達は趣深く、お洒落で可愛く格好いい。極めて狭いコミュニティー内の話だが、1時間半とコンパクトに纏まっているのも丁度のボリュームだ。犬、ワイン、花、車両改造住宅…、小道具も効いている。
この映画のテーマとは何だろう。線路や列車は人生や宿命の比喩、避けられない困難も苦しみも、時には少しの幸せも、消化し折り合いをつけて人は生きるしかない。そんな表現なんだろうか。
ちょっと頭を捻ってみたりもしたけれど、今回はあまり論理的な答えを求めずに、あーあーと嘆息しながら、どこかホッと救われるような不思議な心持ちを、ただ味わっていたいと思った。
しかしながら、かように不謹慎なネタでもあり、台詞もシチュエーションも、ギリギリ紙一重、人によってはアウトな場合もあろう。受け止め方はピンキリかもしれない。
地雷回避は自己責任でどうぞよろしく。