「日本もプロムしよーよ!」ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
日本もプロムしよーよ!
アメリカのプロムという文化は全き日本人の私からすると正直かなり羨ましい。楽しそうだから、というものもちろんあるが、それ以上に高校と大学(ないし社会人)の境目にこういう派手なイニシエーションを刻み付けられることが羨ましい。もちろん日本にも卒業式とか卒業旅行とかいったイベントはあるんだけど、それらはあくまで公式的な手続きか、親しき仲での友情確認作業でしかない。そうではなく、もっとこう、ほとんど他人みたいなクラスメイトや同級生の知られざる一面を鏡にして自分自身の自意識を見つめ直す機会が欲しい。
大学に入ってコイツ嫌だな、と思った奴には往々にして共通点がある。それは他者が見えていないということだ。受験時代から引きずり続けている傲慢な感性と閉ざされたコミュニケーションに終始するばかりで、外向きのベクトルを持っていない。とはいえ現代日本の学校教育から受験というシステムを完全に放逐できるわけがないし、であれば受験時代にジメジメと積み上がってしまった自意識をどこかで見つめ直し、場合によっては空の果てまでぶっ飛ばしてやる機会がやっぱり必要だと思う。
エイミーとモリーは典型的な内向的受験生で、名門大学に受かったという事実にあぐらをかいてそれとなく周囲の生徒たちをバカにしている。そのまま大学に進んだら5chの受験サロンで自分より格下の大学に無慈悲な罵詈雑言をぶつけてそうな感じ。
しかしモリーは「トリプルA」と呼んでバカにしていた頭の悪そうな女生徒が自分と同じ大学に進学する事実を知って半狂乱に陥る。遊びと勉強が強固なトレードオフ関係にあると思い込んでるの、ネクラあるあるすぎるんだよな・・・
そんなわけで自分たちの学生生活の空疎さにようやく気が付いた二人は、一夜にして青春のすべてを取り返そうとプロムパーティーへ赴くことを決意する。以降は湯浅正明版の『夜は短し歩けよ乙女』を髣髴とさせるような、時間の流れを歪めに歪めてあっちこっちのパーティー会場を飛び回るジェットコースター・コメディが幕を開ける。
ろくでもないバカだと思ってた奴に思いがけない一面があったり、密かに思いを寄せてた奴にフラれたり。プロムを通じて二人の狭い了見が徐々に解きほぐされ、今まで見えなかった、あるいは見ようとしてこなかった世界の豊かな側面が立ち現れていく。本当に一晩の出来事なのか?と不思議に思うかもしれないが、そのくらい濃密な夜というのは確かに存在するのだ。
現代のアメリカ映画らしく、青春コメディの中にLGBT的な問題圏が織り交ぜられているのだが、そういう要素をことさらグロテスクに強調しようという下手な作為性は全く感じない。たとえばエイミーはレズだが、周りの誰一人それを気にかけない。So What?てな具合だ。それどころか教条的に凝り固まった近年のLGBT文脈を内面化したうえで軽々と乗り越えている節さえある。「人を傷つけてはいけない」という信条を神経症的に突き詰めるのではなく、仮借ない友情に基づいた適度な「遊び」を持たせること。互いの性的なあれこれを笑い話にしたっていいじゃん、私もアンタもそういうのが好きだって互いに知ってんだから、という。
プロム明けの卒業式に臨むモリーとエイミーの表情は雲一つない青空のように晴れ渡っていた。こういう気持ちのいい奴らと大学で出会いたかったものだ、と心から思った。