劇場公開日 2023年3月10日

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「もしかしたら、「冤罪に問われた人間の名誉を回復する映画」というジャンルが、日本でも根着くキッカケになったかも知れないのに、制作サイドのヘボな点が残念過ぎてなりません。」Winny お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0もしかしたら、「冤罪に問われた人間の名誉を回復する映画」というジャンルが、日本でも根着くキッカケになったかも知れないのに、制作サイドのヘボな点が残念過ぎてなりません。

2023年3月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

あまりにも有名なファイル交換ソフトWinnyを作った金子勇(東出昌大)。
瞬く間に200万人が使い始め、違法アップロード・ダウンロードの温床となります。

そこで、警察は金子を「違法行為を助けた罪」で逮捕し、1審で有罪になったところまでを丁寧に描いた作品です。

主な登場人物を実名で作り上げたのは、この映画でもっとも評価できる点。

さらに東出昌大が、上手い。
この人はこんな上手い演技ができる人だったっけ、と驚くほどの好演技を見せてくれます。

ただし、映画を実名で作ることは、警察側などから名誉棄損で潰されるリスクと裏腹ですから、たとえば愛媛県警の不祥事にしても、食い足りないことおびただしいストーリーでした。
愛媛側の人間が、やがて金子と交点を持って、最後の大逆転劇につながるみたいな展開を、観ている側は当然期待するわけですが、最後まで両者に人間としての交点はなく、期待外れ、肩すかし。
まったくもって残念としか言えませんでした。

また、現実の事件を踏まえているからでしょうけれど、でもこの事件の最大のポイントは、控訴審で無罪を勝ち取る過程にあるはずです。

観客がいちばん観たい部分を完全にスッとばしているので、いったいどのような法廷技術を使ったのかとか、その時にみんなの気持ちはどのように動いたのかなどという部分が欠落しており、これが最大の欠陥でした。

敗訴で悔しい、その部分だけを見せつけられながら、じつは勝訴なんですテヘペロといわれても、観客が着いて来れますか?

というわけで、作り手側の失敗つまり取材対象に過度に憑依してしまったことによる、カタルシスが欠如した失敗作品に終わったのが残念でなりません。

日本でも、冤罪に問われた人間の名誉を回復する映画というジャンルが、ここから始まったからも知れないのに、と思うと、食い足りませんでした。

お水汲み当番