「何のために生まれ何を為したか」Winny ますぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
何のために生まれ何を為したか
ファイル共有ソフト
2000年代初頭のネットは
まだISDNの64kくらいが主流のところを
ADSLで8Mが爆速と言われた時期
クライアントサーバーへの保存と
アクセスを介さずユーザーのPC間で
直接データをやり取りすることで
普及したフリーウェアソフト
WinMXやNapster等が有名であったが
結果的にゲームや音楽ファイルなどの
データが違法にやり取りされる下地を生み
社会問題化のきっかけを生んだ側面が
あった
そんな時期に2chのユーザーの意見を
取り入れながらファイル共有ソフト
「Winny」を開発した「47氏」
金子勇氏のあまりに急な逮捕から
無罪を勝ち取るまでの顛末を
まとめた今作
どうだったか
世代的にリアルタイムで
この事件に触れていた事もあり
思い出すように感じ取れるシーンも
ありましたが
同時期に発生した警察の裏金事件
なども重ねながら世の中のために
良かれと思って生み出された道具に
果たして罪はあるのか
公平性をかなぐり捨て機能不全し
オワコンと化したマスコミが
醜態を連日さらし続ける令和の世に
問いかけるもの
大きかったと思います
前述の通り2chの住民と
意見を交わしながらWinnyを独力で
作り上げた「47氏」こと金子勇氏
世間はそれによる違法コピーの横行
によって逮捕者も出だしたところで
彼の元にも警察が訪れます
そして取り調べの中で
コレを書いてくれたら帰す
といって誓約書の例文を渡し
金子氏は「著作権侵害を蔓延
させる事を目的とした」という文に
違和感を感じつつもうっかり
その通りに書いてしまいます
その後警察は家に帰すと
言いながら結局警察を原告とした
著作権侵害幇助という罪状で
刑事裁判にかけられてしまいます
そんな報道がなされた頃
それを見ていた北尻法律相談事務所の
壇俊光弁護士は
「ナイフで人を殺した事件があって
ナイフの製造者が罪を問われるわけがない」
「開発者が捕まったのなら
弁護します」と言っていたら
その通りになったので
弁護を引き受けることになります
金子氏の逮捕は不当であり
技術者の意欲を削ぐ可能性を
はらんでいるからです
実際アメリカではNapster等同種の
ソフトウェアにまつわる訴訟において
ソフト開発者の罪は問われない
と言う判例が下っています
壇が金子に接見してみると
やや変わったコミュニケーションで
人の言う事を鵜呑みにしてしまう
ところがあり裁判で自分を不利にする
事をも意識が無い事に頭を抱えつつ
2chを通じて集まった裁判費用のカンパ
を見せあなたを支持してくれる人が
これだけいるんだから頑張りましょう
という意図を伝えます
すると金子は涙し壇はこの人は
決して悪い人じゃないという確信を
持ちます
丁度その頃場面は変わって愛媛県警
内部で行われていた裏金作りに
若い警官が加担させられているのを
目の当たりにして我慢出来なく
なっている仙波敏郎巡査の場面も
出て来ます
この事件も同時期に実在した
ものです
とはいえ壇弁護士は
苦しい戦いを覚悟しました
日本における刑事裁判は
99.9%有罪になるとよく
言われます
ですのでそうした条件でも
幾度と無罪を勝ち取ったことがある
秋田真志弁護士に主任弁護を
依頼することにしました
委細を聞いた秋田は
・警察が原告であること
・逮捕が早急であったこと
などに疑問を持ち
法廷においての質問にも
答えることがありませんでした
著作権侵害であれば著作権保有者が
まず訴えるべきだし何故?
と思っているところへ
京都府警の情報がWinnyを通じた
ウイルス感染で流出したという
ニュースも流れます
つまり府警のPCでWinnyを
使った署員がいたこと(不祥事)
を隠蔽するために金子の逮捕を
急いだという勘繰りを弁護団は
するわけです
壇がそのあたりを金子に尋ねると
Winnyは脆弱性が弱点で
ウイルスに弱いことや
(実際キン○マウイルスなんて
呼ばれるヤバいのがあった)
使われながら改善を進めていく
途中だったこと
何よりWinnyを作った目的は
匿名のまま著作物を広く公開
出来ることであったこと
などの答えが返ってきます
壇は金子がピュアなプログラマーで
あることをただでさえ裁判官や
世間にはわかりにくい
コンピューターやプログラムの話で
どう伝えるかに頭を悩ませることに
なります
その頃先ほどの愛媛県警の仙波氏は
地元マスコミに公表を訴えるものの
取り合ってもらえない事でついに
弁護士を通じて世間に公表する
決意をします
弁護士からは身の安全を第一に
ホテルを使うなど要請されます
ここを映画では
Winnyが目指したものと
対比しているのでしょう
裁判は
金子が「自発的に書いた」
と警察側が言う申述書の
蔓延を「満えん」と誤記してある
部分から秋田弁護士は
この文章は普段使っていない
言葉を用いた→書かされた
ものであるという機転もあり
捜査情報流出の不祥事を抑えるため
京都府警が手っ取り早く逮捕状を取り
申述書を無理に書かせた事実を
ほぼ暴く事に成功します
しかし金子氏の著作権侵害の意図が
無かったことまでは
証明し切れていません
そこで檀氏は法廷で金子氏が
他に作っていた飛行機や
人形が格闘するプログラムなどを披露
ある意味彼がプログラムすることにしか
興味が無い事を裁判官に訴えます
またその頃ついに愛媛県警の裏金を
公表した仙波氏
県警は事実を否認するものの
裏金の証拠となる架空の捜査費用や
協力費の領収書がWinnyを通じて流出
それを見た新聞社が報道し
事態は急転していました
人知れずWinnyがその本来の
目的を果たしていたという
印象的な描写です
(事実として実際関連したのかは
わかりませんが)
そして判決の時
結局金子氏は一審では有罪になって
しまいましたが最高裁まで争い
7年後に金子氏は無罪を勝ち取ります
しかし…その半年後に金子氏は
急性心筋梗塞でこの世を去り
自由にプログラミングを続けられたのは
ほんのわずかだった事になります
それでも遺族の姉は弟は檀氏にいつも
感謝していたと遺品の眼鏡を
檀氏に託すのでした
2003年時点で
Winnyを作ったことが
早かったか遅かったか
今ではYouTubeやSNSなど
情報を個人が広く拡散するツールが
あふれる時代にWinnyが普及する事は
無かったでしょう
早く生まれた技術が批判のやり玉に挙がる
これはよくあることです
個人的にはWinnyに崇高な設計思想が
あったとして金子氏が意見を取り入れた
という2chの住民の意図は本当に
違法ファイル拡散でなかったと
言い切れるのか?
と思うところもあります
ただ普及のし始めってやっぱりそんなもの
(YouTubeだって初期は
TV録画の無断公開ばかりでした)
公開を経て順次改良改善を加えていく
そうやって社会に則したものに
なっていくものです
Winnyは金子氏の裁判によって
その機会を失ってしまった
不幸なソフトと言えるかもしれません
正直ちょっぴり
映画で伝えたいことの焦点が
ぼやけてわかりにくい印象も
ありますが
色々考えさせられるには十分な
作品だったと思います
改めて東出昌大は良い俳優だなと
感心しました