Winny : インタビュー
「世に出さないといけない」「真実を描く」 東出昌大&松本優作監督が語る、「Winny」事件映画化の意義
東出昌大と三浦貴大が主演を務める映画「Winny」が、3月10日から公開された。描かれるのは、ファイル共有ソフト「Winny」の開発者である金子勇さんの実話を基にした“Winny”事件。金子さん役を務めた東出、本作のメガホンをとった松本優作監督に話を聞いた。
本作は、2018年に起業家・古橋智史氏が企画し、「ホリエモン万博」の「CAMPFIRE映画祭」にてグランプリに輝いた作品だ。「CAMPFIRE映画祭」とは、応募された企画からクラウドファンディングで資金調達に成功した4組の企画者が、観客と審査員の前で映画企画のプレゼンを行い、審査員による投票でグランプリを決定するもの。審査員は、「CAMPFIRE」代表取締役・家入一真氏、伊藤主税プロデューサーらが務めた。
2002年、開発者の金子勇(東出)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発し、試用版を「2ちゃんねる」に公開をする。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていくが、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出。次々に違法アップロードした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦)が弁護を引き受けることになるが、第一審では有罪判決を下されてしまう。
金子さんは、2013年に急性心筋梗塞で死去している。2月に行われた本作の完成披露試写会では、役作りのために18キロ増量したという東出が、撮影前に壇弁護士らと共に模擬裁判を行ったことなどが語られた。それだけでも、東出が真摯に作品と向き合ってきたことが伝わってきたが、舞台挨拶中には金子さんの実姉からの手紙が紹介され、“金子勇”として現場にいる東出を見て涙したことや、東出が金子さんのお墓参りをし、きれいに掃除をしてくれたことへの感謝も綴られていた。
――本作の企画を聞いたとき、どういう部分に一番惹かれましたか。
松本監督:自分はもともと「CAMPFIRE映画祭」に別のイベントで登壇していました。そのとき、企画の古橋さんが「Winny」についての話をしていたのを覚えていて、伊藤プロデューサーともその時に挨拶はしていました。そこから数ヶ月くらい経ってからお話をいただいたところから始まっているので、最初は事件について詳しく知らなかったんです。
撮影が始まるぎりぎりまでは、映画としてうまくいくかわからなかったです。Winny事件は重大な出来事ですが、大きなアクションがあるわけでもないので、映画として成立させられるかは不安でした。でも、壇先生や金子さんのご遺族の方など、いろんな方への取材を通して、これはちゃんと世に出さないといけないという意思が強くなっていきました。どこか他人事だったことが、段々と自分事になっていく感覚です。確実にいいものに仕上げないといけないという気持ちで臨んでいました。
東出:僕はお話をいただいてから台本を読むまで時間があったので、自分なりにWinny事件のことを調べていました。また、台本をいただいてから監督にお会いするまでも時間があったので、台本についてもしっかり話せるくらいになっていたいと思っていました。台本を読んでからは監督と同じく、金子さんの真実を世に出さないといけないと感じたので、実際に監督にお会いしてからは、すぐにチーム一丸となって進んでいった感覚です。
――金子さんについて残っている資料は少ないと聞きました。そんななか、東出さんはどのように役作りを行っていきましたか。
東出:まずは外見から役作りをしました。あとは、壇先生や金子さんのお姉様にお話を聞きました。例えば、壇先生からは「昔、金子さんって身振り多いよねって言ったら、両手を顔の前で大きく振りながら『そんなことないです』って言っていた」というお話を聞きしたので、そういう天然さも取り入れていきました。
――外見を近づけるために、18キロ増量されたそうですね。
東出:玄米と鶏肉、生卵、ブロッコリー、プロテインをひたすたら食べて増やしました。胃に負荷がないものを食べないと、胃が持たないそうです。
松本監督:痩せるより太る方が大変らしいですね。
東出:本当にしんどかったです。ボクサー役もやりましたが、減量より増量の方がずっときつかったです。作品が終わって痩せられるのは楽しみでしたが、金子さんを演じるのが終わってしまうのは、すごく寂しかったです。
松本監督:東出さんは本当にすごかったですよ。まず、衣装合わせのときに驚きました。劇中に使う写真とかも撮影するのですが、そのときにスタッフ全員がびっくりしました。もうすでに金子さんだったんですよ。実際に撮影しながらも、金子さんのご遺族の方の反応を見て、魂が入っている感じもしました。ご遺族の方は、東出さんを見られて過呼吸になるくらい泣かれていました。裁判所で座っている様子を最初に見られたそうで、当時のことがリンクしたこともあると思います。ただ、金子さんを演じた東出さんの佇まいや話し方などは、金子さんを知るどなたに聞いても似ていると言っていました。役として仕草を取り入れるのって、やりすぎると芝居くさくなったり、ものまねになったりしてしまいます。とても難しいことですが、東出さんはそのバランスがすごく絶妙でした。
東出:ありがとうございます。監督の演出のおかげです(笑)。
――お二人は撮影を通してお互いどんな印象をお持ちになりましたか?
松本監督:東出さんに最初お会いしたときは、僕らの認識ではまだ正式に主演を引き受けていただいていない状態だったので、軽いご挨拶程度になると思っていたのですが、さっきおっしゃっていたみたいにものすごく「Winny」について調べられていたので、驚きました。これまでの出演作品を拝見してはいましたが、どういう方かはわかっていませんでした。俳優さんはそうあるべきだと思いますし、ミステリアスな部分が魅力的だとも思いますが、一つのことに熱中している感覚が、僕の中で金子さんがプログラミングに向かう姿勢もこうだったんじゃないかなって重なったんです。最初にお会いしたときから金子さんの役をお願いしたいと思いました。
東出:先日、俵万智さんのインタビューを拝読したのですが、事実は作品にならない、そこに嘘だとしても演出を込めて、事実よりも真実を際立てさせると作品になるというようなことをおっしゃっていました。事実を歪曲させるということではなく、真実を届けにいくと。
この真実というのがWinny事件において何だったのかを考えたとき、壇先生たちが「Winny事件に携わった全員が敗者だ」とおっしゃっていたんです。弁護団、警察、検察、全員です。でも、裁判で戦った7年が不毛だったとは誰も言わない、みんな誇りに思っていると。これは真実だと思っています。ただ、みんなが気概を持って生きているという真実を描くには、“人間愛”がないと作品として成り立たないんです。松本監督のデビュー作「Noise ノイズ」を見たときに、どん底にいる人にも光が差し込む人間愛みたいなものが、監督の作品にはあると思いました。だから、今回「Winny」もこういう作品になったんだなと思います。
――東出さんは、壇弁護士を演じた三浦貴大さんとの共演シーンが多かったと思います。ご共演されていかがでしたか。
東出:三浦さんは人間的な優しさがある方だと思います。壇先生は、ご自身でも言っていましたが、好戦的なところもある方です。でも、壇先生の正義感とか弱者に寄り添う弁護士の鑑のような気持ちは、誰かを救いたいという優しさが大きいからだと思うんです。金子さんの横に立つ壇先生の優しさが希薄だったら、映画のなかの2人のような雰囲気にはならなかったと思います。三浦さんの中にある優しさが現場を包んでくれました。ただ、壇先生ご本人が実際に見ている前で壇先生を演じているので、それは大変だったと思います。
松本:本当に大変そうでしたよね。壇先生は今回監修だけではなく、制作部のような動きもしてくださいました。
東出:ご自身でレンタカーとスポットクーラーを借りて、さらに「僕の車も機材車として使ってください」って、運転もしてくれましたよね。
松本監督:本当に魅力的な方で、同じチームの一員として動いてくださいました。