「上田ワールドを止めるな!」スペシャルアクターズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
上田ワールドを止めるな!
メガヒットや社会現象となった後の作品は嫌でも真価が問われる。
殊に上田慎一郎にとっては、旋風を巻き起こした『カメラを止めるな!』に続く長編監督第2作目。
この人はただの一発屋だったのか、ユニークな異才の持ち主なのか…?
『カメ止め』同様、ワークショップなどで見出だされた無名の俳優たち。その素人っぽさが面白い。特に主人公が…(笑)
脚本も当て書き。
長編は2作目だが、すでに上田ワールドを確立しつつある。
見る側の私自身も、『カメ止め』同様、あまり話の展開や予備知識を入れないで鑑賞。『カメ止め』もそうして面白かったからね。
見る前の本作の大まかな概要は、とある無名俳優事務所によるドタバタ劇…?
確かにそうではあるが、もうちょっと詳しく説明すると…
全く売れない役者志望の和人。そのやる気の無さそうな演技力に加え、極端に気弱で、しかも緊張や追い詰められると気絶してしまうという性格…。
ある日、弟の宏樹と数年ぶりに再会。意外や宏樹も役者の仕事をしており、誘われて“スペシャルアクターズ”に入所。
そこは、普通の映画やTVや舞台の仕事の他に、依頼者の問題や悩み事を所属役者たちが設定を作り芝居で解決する、風変わりな仕事も請け負っていた…。
あらすじだけ聞くと、ちと「?」。
請け負い芝居…?
でも実際見てみると、なぁるほど。つまり、
意中の女性と付き合いたいある男性。チンピラが絡んでくる。最初はチンピラにビビり腰の男性だが、勇気を出して撃退。彼女のハートをGET!
実は、男性は依頼者で、チンピラは事務所の役者。
サクラやヤラセみたいなもんだが、そんなお話と芝居をやっているのが、スペシャルアクターズ。
さてさて、超低予算で31・2億円の大ヒットとなった『カメ止め』。
ところが…
本作は比較にならないもしくはどう例えたらいいか分からないくらい、全く及ばずの不発。(本作の興収は5000万円ほど)
昨秋の週間ランキングで初登場TOP10入りも出来ず、人によってはこんなの公開してたんだレベル。
短編や共同監督作はあったものの、『カメ止め』の後の第2作目としてはあまりにも冷め具合や落差が尋常じゃない。
世間一般的には、期待ハズレ、失敗作…。
個人的には、さすがに『カメ止め』ほどではなかったというのが率直な感想。
やはりあの、話の面白さ、巧みな構成、見終わった後の心地よさ…これらは近年の邦画の中でも格別のものだった。
だけど本作も、『カメ止め』や世間の冷遇ほどではないにせよ、これはこれで面白かったと思う。
ストーリーの続き。
スペシャルアクターズに大きな依頼が。とある旅館の次女から、長女がカルト教団に洗脳されてしまい、その教団に旅館を取られてしまう。ひと芝居売って、旅館を教団から守って欲しい、と…。
無名役者集団vsカルト宗教集団!
“ムスビル”というその教団が如何にも怪しい。
宇宙を司る全知全能の神の啓示を受ける教祖様が居て、言葉を発せない代わりに教団代表が代弁して、信者たちに有難い教えを授ける。
高価な教団グッズもたくさん。
はい、勿論悪質な詐欺集団。
ころっと心酔しそうな20代の若者や40~50代のオバサンを言葉巧みに騙す。
代表が関西弁の黒幕で、教祖様はその息子でぐうたらなニートくん。
もう見るからに怪しい。
自称超絶美人天才マジシャンと自称超天才&巨根物理学者が出てきそうな…。
さすがに出ては来ないが(←当たり前だ!)、スペシャルアクターズはどんなひと芝居で詐欺教団を騙すのか。
何と!この依頼の中心的存在になってしまった和人。プレッシャーと気絶しそうな中、依頼をやり遂げる事が出来るのか…?
勿論、ネタバレ厳禁。
あの『カメ止め』の監督作なので、何かしら仕掛けがあると期待。それも勿論。
話自体はコン・ゲームみたいに進んでいく。
信者に成り済まし、教団に潜入し、色々教団の秘密を探り、いざ作戦決行の日!
上手く行ったと思いきや、定番のピンチ!
が、実はこれも…。
途中から予想付き、少々おバカチックでもあるが、二転三転。
でも、何か物足りない。最後にもう一捻り。
気絶体質故、通うメンタル医院。
子供の頃から大好きで何度も見ているチープなB級ヒーロー映画。
弟との数年ぶりの再会。
“スペシャルアクターズ”というこの事務所。
依頼も怪しい教団も何もかも、全て実は…。
優しい終わり方。
行け、ヒーロー!
低予算で無名の俳優を発掘してどんでん返しのコメディ。
…と、思われてる上田作品。でも実際は…
ダメダメ人間や自分に自身が無い人へエール。
上田監督がレスキューマン。一人一人こそレスキューマン。
そんな上田ワールドを止めるな!
興行的にだめだったのは、『イソップの思うツボ』があまりにもひどかったので、その影響があったのかも。どうして、世に出しちゃんでしょうね。
これからも、面白い上田ワールドを見せてほしいですね。