「実はストレートに愛の物語」スペシャルアクターズ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
実はストレートに愛の物語
「カメラを止めるな!」の後の2作目とあって、上田慎一郎監督は相当悩んだらしい。それはそうだろう。あそこまでのブームを産み出してしまった作品の後である。相当なプレッシャーであった筈だ。
それでも上田監督は「伏線を張ってひっくり返す」ことに拘った。ただ今回は細かくひっくり返すのではなく、一気に全てをひっくり返す。
役者志望の主人公は、ストレスが極限に達すると失神してしまうという悩みの持ち主である。彼が弟と偶然再会し、演じる何でも屋「スペシャル・アクターズ」で働くことになり、宗教を装った詐欺集団と戦うことになる...
というのがまあおおよその「筋」であり、正直この筋立てに「カメラを止めるな!」程のインパクトと笑いはない。演技は皆未熟であり、教団はつくりものめいており、あまりにも何もかもがうまくいきすぎる。
主人公はとにかく気が弱く、常に小刻みに震えており、失神しなくとも台詞回しはてんでダメ、とにかくこの子大丈夫か、という感じである。
彼がずっと観ている「レスキューマン」(これまたなんというか...B級を絵に描いたような?映像)に自分を擬え、弟に叱咤激励されて演じながら戦ううちに自らの殻=失神する自分を破る、という物語としては大変ありふれた展開といっていい。
だからこそラストの伏線回収は私には効いた。上田監督は非常に細かい伏線を最後の為にひたすら設定していたのである。カメ止めのような親切設計ではなく、一気に持っていくタイプだ。私は不覚にもこれで泣いた。どんだけ。
だがしかし、あのラストの為の物語としては少々冗長というか...あのラストに怒り狂う観客が居てもおかしくないと思う。ある意味禁じ手である。かなり産みの苦しみがあったな...と察せられる。
今回もキャストは全てオーディションで選び当て書きをしたそうだから、上田慎一郎という監督はそのスタイルを貫いていくのかもしれない。しかし今後、商業作品を撮る上でその作家性は枷ともなり得る。ストーリーテリングの才は間違いないので、新たな切り口とキャストで挑戦してみてほしい気持ちはある。
役者の皆さんにとっては「演じる」ことが難しい映画だったと思う。だからこその当て書きだった訳ではあるが、こういう映画だと器用な役者は目立つな、とは思った。主人公の彼は、あの困り顔で満点である。
カメ止めのようなカタルシスは期待しないほうがよい。これは若者の、自身への奮闘劇であり、不器用な愛の物語。少なくとも私はそう思って観た。