ラスト・ドアのレビュー・感想・評価
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ゾンビ映画が観たい人は回れ右
まずはゾンビ映画として、これは全くつまらないと言っていいと思う。
絶命しないとゾンビ化しないというのは、あまりゾンビ映画を観ない自分には斬新、というか、丁寧だなと思ったけれど、それは、ゾンビ化までの時間差の説明であって、特に意味はない。
ゾンビ映画としてつまらないんじゃ致命的だろと思われるかもしれないが、本作はそもそもゾンビ映画ではないのだ。ゾンビは出てくるけどね。
オープニングで、白人優位主義のシンボルに使われることもあるケルト十字を首に掛けた主人公エンリコは、移民反対のデモに参加している。
そこで突如としてゾンビ発生。街は戦場のように豹変する。
エンリコが危機一髪逃げ込んだ先は、移民が一時収容されている施設だった。
ここで白人優位主義者と移民の立場が逆転する。
つまり、移民だけが暮らしている施設に外の戦禍から逃げ込んできたエンリコはメタ的難民となったのだ。
施設から出られなくなったエンリコは、ケルト十字のネックレスを外し、移民たちと親しくしようとする。
エンリコを受け入れてくれる移民がいる一方で、冷たい態度をとるアフリカからの移民の大男(名前は忘れた)は、外の世界でのエンリコ、つまりメタ的エンリコとなる。
エンリコは少年アリとサッカーに興じ、多少はコミュニケーションをとれるようになり馴染んできた矢先、施設にゾンビが雪崩れ込み最大の危機を迎える。
エンリコに冷たかったアフリカの大男はこのピンチに、自分の身をていしてメタ的移民であるエンリコを信じ、同郷のアリを託す。
しかし更なる危機が訪れた時、エンリコはアリを生け贄として自分だけ助かろうとする。
移民を受け入れ、信じて親しくしても、ピンチになればイタリアを踏み台に自分だけ助かろうとするぞと、普通は移民や難民の問題を提起するもののどこかで融和のメッセージも残すものだが、ここまであからさまに反移民を掲げる作品はなかなかない。
融和の象徴のはずだったサッカーボールが、血みどろとなるエンディングはとても印象的だった。
ヨーロッパの移民問題の知識が少しないと、全く意味がわからないであろう、野心溢れるメタ的作品で、レビューが低評価ばかりになるのも仕方ない。
国を出なければよかったと嘆く移民や、ドイツ語を勉強する移民など、移民問題小ネタもあって面白いんだけどね。
あまりの低評価に憐れみを感じたので、ちょっと星をサービスする。
しかしゾンビっていうのは無限の可能性を秘めているんじゃないかと最近思う。
ポップとの融合は懐かしいレベルだが、古典文学やロマンス、ミュージカルなどと共演を果たし、ついには移民問題とも成し遂げた。
ゾンビの懐の深さには驚嘆する。
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