「音楽版「グッド・ウィル・ハンティング」」パリに見出されたピアニスト odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽版「グッド・ウィル・ハンティング」
パリ北駅に置かれた駅ピアノが引きあわせた運命の出会い。
ピアノをひく青年マシュー(ジュール・ベンシェトリット)とそれに聞き惚れるコンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)の学部長のピエール(ランベール・ウィルソン)。
まさに音楽版「グッド・ウィル・ハンティング(1998)」といったハートフルなヒューマンドラマです。
マシューの才能を見出したのはピエールより先に、マシューと同じ団地に住む老人でした。
幼いマシューに老人は「ピアノは心で弾くのだよ」と教えます、ピエールもまた「天才とは子供の心を取り戻した大人のこと」とボードレールの名言を引用します。
いくら天性の感性に恵まれたと言っても素人ではいきなり国際コンクールを目指すのは無理なのでコンセルヴァトワールでの特訓が始まります。学部長の進退をかけた懇願とは言え編入が出来てしまう所は凄いです。普通ならよそ者扱いで揉めるところですが学生たちも温かいのは意外でした。
先生の伯爵夫人は気難しそうなので「セッション(2014)」の二の舞かと冷や冷やしました、他にも気を揉ませる出来事を散りばめていますが、この手のドラマの定石でしょう。個人的にはアンナとのベッドイン、ピエールの奥さんの辛辣なセリフ、弟の事故などは余計に思えしっくり来ませんでした。
パリは格差社会の坩堝なのですが移民の母子家庭の子のマシューより黒人の恋人のアンナの家がブルジョアというのもパリの縮図なのかもしれません。道を外さぬ為にも友達は選ぶべきと思いましたが終幕に来て悪友たちがマシューを助けるくだりといい、代役のミシュレが笑顔で席を代わるシーンも痺れました。
マシューの演奏の指導と吹き替えはショパン国際コンクール他受賞歴多数のジェニファー・フィシェさんという女性、リストのハンガリー狂詩曲は聞き惚れました、ラフマニノフ ・ ピアノ協奏曲第2番はもう少しエネルギッシュな方が好みですが表現がマシューの天才ぶりを伝えるという重要な役どころを上手に演奏していましたね。