「「最高」ではないけれど面白かった」見えない目撃者 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
「最高」ではないけれど面白かった
この物語は、事故で弟を死なせてしまったとふさぎ込んでいる主人公が、それを乗り越える話だ。事件の決着なんてどうでもいいのである。
吉岡里帆演じる主人公なつめがどのように過去を克服していくのかが焦点なのだ。
高杉真宙演じる春馬はメタ的な弟のポジションだ。
主人公なつめが必死に救おうとする、存在すらあやふやな女子高生もまた、弟とかぶる存在と言えるかもしれない。
元々持っている正義感と、心のどこかにある救いたいという気持ち。これらがなつめ本人も気づかないところで彼女を突き動かす。
そんななつめの必死さは、今まで無気力に生きてきた春馬をも変えていくことになる。
なつめが女子高生を救うこと。春馬が未来を見つけること。この二つが成されることで、なつめはやっと事故から立ち直ることができるのだ。自分も弟も互いに先へ進まなければならない。
既に書いたが、なつめ本人がそのことに気付いていないのがいい。なつめ本人が、女子高生や春馬に対し弟の影を露骨に見てしまったら急に少年漫画的になってしまうからね。
そして何よりも重要なのは、目の見えない主人公をどのように活かすのかだ。
ただ見えないだけでは意味の薄い設定になってしまうから。
その点は、些細な音も聞き逃さない特殊能力じみたことから始まり、「デアデビル」のような、エコーロケーション的演出まで、中々面白く活かしていたと思う。
目の見えない者の証言の信憑性が軸となって、次第に事件が明るみに出てくるストーリーテリングも良かった。
なんというか、証拠の有無ではなく、信用の有無で物語を紡いでいる感じだろうか。
最初から最後まで、なつめがお探しの女子高生が事件に巻き込まれているか決まっていない(まあドラマ的には決まっているけれど)ところも面白い。
あまり重要ではないけれど、過去の事件からの関連性、そこから派生する犯人の動機、と、事件パートの穴埋めもしっかりしていた。
あとは最後に、極端な話、そんな細かいことはどうでもいいんだが、ラストの戦いの経緯がお気に召さない方がいるようなので、そのことについて。
なつめは視力を失ってしまったこともあるが、助け出す時間が間に合わなくて弟を死なせてしまったわけだ。
つまり、なつめの中には時間に対する心の余裕がないのである。だから応援を待っていられないし、目に見えない一般人であるなつめを行かせるわけにもいかないしで、刑事さんが単独で乗り込むことになるんだな。
なつめが言っても聞かない頑固者なことは散々見せられてきたからね。なのでドラマ的にはこれで合ってる。