劇場公開日 2019年9月20日

  • 予告編を見る

「非常に優秀なスリラー映画です」見えない目撃者 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0非常に優秀なスリラー映画です

2019年9月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

2011 年に公開された韓国映画「Blind」のリメイクだそうである。オリジナル版は未見である。2015 年には中国でもリメイクされたそうだが、そちらも未見である。あまり期待せずに観に行ったのだったが、思いがけない傑作だったので非常に嬉しくなった。

本作の主人公は元女性警官で、交通事故で視力を失うと同時に、身の回りの環境を激変させている。まず、この導入が見事であり、周到に伏線化されていたのには非常に感心した。自らが起こした事故に対する後悔の念の深さは痛いほど伝わって来た。彼女がのちに遭遇する連続猟奇殺人事件は、発端が非常に些細な事故であったが、盲人ゆえの聴覚や嗅覚の鋭さから異常を察知するところも秀逸であった。

盲人が目撃者という立証の困難さから、警察の扱いは最初けんもほろろの対応であったが、次第に事件の核心へと接近していく過程も不自然さがないのに感心した。説明的な台詞はほぼ皆無で、それぞれの人物がそれぞれのタイミングで語る言葉が必要最小限であり、非常に見ていてテンポが良かった。終盤のドキドキ感は「羊たちの沈黙」に匹敵するもので、非常に楽しめた。サスペンスというよりスリラーとしての出来の良さに痺れた。

主演の吉岡里帆は、非常に薄いメイクで盲人感を良く出しており、深い絶望や、終盤の行動への強いモチベーションなどをしっかり感じさせていたと思う。脇を固める俳優陣も実力者揃いで、非常に見応えがあった。連続猟奇殺人犯などというものは狂人に決まっているので、動機には一片の同感も同情もあり得ず、犯人の行動の容赦なさはまさにモンスターに徹していて、これまた印象的であった。

音楽は見たことのない人だったが、スリラー映画の見本のような曲を書いていて、非常に音楽が効果を上げていたと思ったが、やはりエンディングの場違いな歌だけは余計だと思った。

演出は見事なものであったが、車で襲いかかるシーンで、あんなに色々なものにぶつかったら車体の傷は大変なことになったはずなのに、どこかで修理したような展開もないのにほとんど無傷で翌日に登場するところはちょっと違和感があった。自動車修理工が犯人で自分で直したのではないかとか考えたのだが、考え過ぎだったようだ。また、犯人が遭遇した相手を殺すのか殺さないのかの判断の違いがよく分からなかった。終盤で言いつけを守らないのはスリラー映画の常道とは言え、協力者が自分の命を賭してでもという行動に出る理由がやや弱いような気がした。とは言いながら、非常に良く出来た映画で、大変楽しめた。R15+ 指定(15 歳未満は親と一緒でも鑑賞不可)によって、客が減るのも覚悟で猟奇的なシーンを誤魔化さずに撮影して見せたところには男気を感じた。
(映像5+脚本5+役者5+音楽4+演出5)×4= 96 点。

アラ古希