「上質なサスペンスなのに終盤が…」見えない目撃者 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
上質なサスペンスなのに終盤が…
冒頭で、吉岡里帆さん演じる浜中なつめが警察官になるために訓練を重ねながらも、自身が起こした交通事故が原因でその夢と弟を同時に失ってしまったことが、端的に描かれています。ここで、物語に必要な要素が無駄なくシンプルに描かれいるおかげで、作品世界にすんなり入っていけました。この冒頭のシーンが、単に舞台設定の説明としてだけでなく、その後のなつめの行動動機や終盤への伏線につながり、また作品全体を通して彼女の変容を描くことにもつながっていたと思います。
そんな盲目のなつめが、たまたま事件の目撃者となり、事件の真相に迫っていくという展開なのですが、この辺りの描き方も実によかったです。映像的にはきわめて地味なのですが、細い糸を手繰るようにわずかな手がかりから真相へと近づいていく様子が緊迫感をもって描かれていて、ぐいぐいと引き込まれていきました。
その過程において、なつめの捜査に協力する国崎春馬がしだいに自分の生き方見つめ直していく姿が描かれます。高杉真宙くんの演技から、無気力な高校生の目に、光が宿るような変容が見られたのがよかったです。また、当初は真剣に取り合わなかった警察が、しだいに本腰を入れて捜査するようになる過程も、スムーズに描かれていたと思います。田口トモロヲさんの好演で、穏便に定年を迎えようとする老刑事が、刑事としての使命感を思い出し、もう一度奮起する姿にも地味に心を打たれました。
こうして犯人が明らかになるところまでは、重厚な雰囲気でとても丁寧に描かれ、上質なサスペンスを堪能できました。しかし、犯人と対峙する終盤のシーンは、自分には合わなかったです。クライマックスとして緊迫感を盛り上げるためかもしれませんが、盲目の女性と高校生があんな行動とりますか? あんなに都合よく展開しますか? それに、犯人は死亡フラグの立った人間だけを確実に殺し、あとは見逃しているかのようで、どうにも興ざめでした。
終盤の残念ポイントはありますが、全体的には十分楽しめる良作だと思います。ただし、遺体損壊のグロシーンがありますので、耐性のない方はご注意ください。