パラダイス・ネクスト : インタビュー
妻夫木聡×豊川悦司、全編台湾ロケ「パラダイス・ネクスト」は「旅をしているような感じ」
ホウ・シャオシェン、ジャ・ジャンクーら名匠たちの作品の映画音楽で知られる半野喜弘が監督・脚本を手がけ、ワケありの孤独な日本人の男二人が“運命の女性”と出会い、楽園を探す物語を全編台湾ロケで描いた映画「パラダイス・ネクスト」が公開される。ダブル主演した妻夫木聡と豊川悦司に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/松蔭浩之)
世間から身を隠すように台北でひっそりと暮らすヤクザの島(豊川)の前に、得体の知れない軽薄な男、牧野(妻夫木)が現れる。牧野は初対面のはずの島の名前を知っており、島が台湾に来るきっかけになった事件の真相についてほのめかす。牧野をいぶかしく思う島だったが、牧野が何者かに命を狙われていると知り、一緒に台湾東海岸の町・花蓮へと向かう。そこで出会った女性の存在により、牧野と島の閉ざされた過去が明らかになっていく。
2014年公開の「ジャッジ!」で共演しているが、今作は男ふたりの関係をより濃密に描いたノワールサスペンスだ。がっつりと共演する前後での互いの印象は「共演する前も後も、僕の方での印象は大きく変わりません。精神的な支柱となる方だな、というのは常々思います。豊川さんがしっかりいてくださっているからこそ、作品がしっかり地に足をつけて進んでいける、というくらい強い方。そこを皆頼りにしていましたね」と妻夫木。
豊川は「頑固なだけですよ」と謙遜しながら、「僕にとってブッキー(妻夫木)は、初めて会った頃から全く変わらず、仕事じゃないときは楽にいられる年下の青年で、仕事であれば、そういった背景は全く関係なく、セリフや目線を交わす、ということが気持ちよくできる珍しい役者。変な意味ではなく、女優さん相手のように僕がもらった役に入りやすいんです。彼が一緒だと、そういった安心感がある。現場でいろんなことが起きて、役を超えて違うことをやったりしなきゃいけないこともあったのですが、そういう時でも、一緒になって監督に意見を言ったり、徹夜を楽しんだりすることもできる方です」と妻夫木を評する。
中堅の実力派として日本映画界をけん引するふたり。数多くの大作、話題作やドラマにも出演するなかで、商業的な作品とは一線を画した今作のオファーを受けたのは、半野監督の熱意を強く感じたからだそう。
「半野さんの情熱に負けました。半野さんと知り合って一緒にやろうと台本を渡されて、何度かいろいろ話し合って。台湾で映画を撮影するのは、夢でしたし、台北や花蓮などの街並みを含めて撮影するというのは初めてだったので、僕はいわば共犯者みたいな感じでかかわりました」(妻夫木)
「お話を頂いて本を読んだとき、これ、面白そうだけど、正直成立しないんじゃないかと思いました。このご時世、こういった話に誰がお金を出してくれるのか…と。それなりに実現するまでに時間は掛かりましたが、この世界観は好きだったし、ブッキーが乗り気で、台湾で撮影というのが前提だったのにも惹かれて。半野さんのことは知らなかったのですが、お会いして、その情熱がすごく伝わってきたので、ぜひよろしくお願いしますとお返事しました」(豊川)
今作で台湾での撮影を経験した豊川は「すごく良かったです。昔、ローマが映画の都と言われていたような、アジアの映画の都みたいな雰囲気があって、そこに役者として立てたことがとても気持ちよかった。台湾という場所が持つエネルギーのようなものが、すごく映画に合うんじゃないかなと感じました」といい、「いろんな映画監督がいらっしゃいますが、半野さんはやっぱりいい意味で、ストレートに自分が見たい映画を作ろうとしていたところがすごかったです。自分の企画ですし、職業というよりは、純粋に映画青年が見たいものを作る、という思いが溢れていた。それがよかったです」と現場を振り返り、「この作品をやったおかげで、外国で仕事をしたい、という思いが強くなりました。自分が想像していたよりも、はるかに楽しい経験でした」と充実感をにじませる。
企画段階から携わった妻夫木は、完成作を見て「予想した以上のものになっていた」と、太鼓判を押す。「半野さんも2作目だし、どこまでできるのかっていうのは未知数でした。半野さんはすごく頑固ですが、それは大切なこと。映画って監督のものなので。どうしても彼が映像化したいっていうイメージと様々な事情が伴わないときがあるので、たまに衝突したこともありましたが、その頑固さは嫌いじゃないし、古きよきアジアの映画文化を大事にして、それをこの現代の中で上手に使おうとがんばってらっしゃったのを感じました。そして、僕たちだけではなく、台湾の方たちもいい作品に仕上げたいという思いが集まった結果だと思います。台湾で撮るということに間違いがなかった」と確信を込めて語る。
ホウ・シャオシェン監督「黒衣の刺客」など、海外の作品でも存在感を見せている妻夫木。「特にアジアは僕が興味がある場所なので、積極的に参加したいです。これから中国、台湾、韓国など、アジアで一緒になってもっともっと面白いことができれば、少しでもその力になれたらいいなと思います。世界は広いと思っていたけれど、一端足を踏み入れてしまうと意外と狭かったりする。あんなに遠いと感じていたのに、日本とやっていることがあまり変わらなかったり。規模が違うだけで、皆映画が好きだというだけで、その情熱の下で動いている。そこにあまり違いはないんです。僕が世界なんて……という風に思わないで、積極的に踏み入れていきたいなと思います」と、国際的な活動を視野に入れた今後のキャリアについても言及した。
カタルシスを感じさせるストーリーとともに、ロードムービーとして台湾の魅力も楽しめる今作。映画の中の3人が生きる場所に行ってみたいと思わせるような映像が満ち溢れている。
「映画ですが、本当に自分が旅をしているような感じが気持ちよかった」と振り返る豊川。「僕は田舎も好きでしたが、台北の街の市場やちょっとした路地裏だとか、今の台北の顔ではなく、少し懐かしい台北の名残がある場所。そういうところが気に入ってしまいましたね。映画を見て、同じ場所を探してもらうと、すごく楽しんでもらえるのでは」とお気に入りの場所を挙げる。
妻夫木は「これまで僕は台湾のイメージ=台北だったので、今回始めて訪れた花蓮の自然の力に大いに助けられました」といい「台北は、海外で初めて住みたいな、と思った場所です。日本と似ているのかわからないけれど、日本が失くしたものがまだ台湾にある気がするんです。豊川さんの言う路地裏のように、台湾のそういう場所にいると安心するというか。上辺だけの付き合いだけではなく、もっとさらけ出して付き合える場所なんです。そういう台湾が僕は好き。この映画のそういった部分も見ていただきたいです」と見どころを語った。