燃ゆる女の肖像のレビュー・感想・評価
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ラストシーンのビバルディ四季に燃えた
ミラノへ嫁いだエロイーズがスカラ座だろうか?「四季の夏」の演奏を聴くシーンには、勝って画家マリアンヌとの鮮烈な恋を連想させる。激しく燃える二人の絡み合いと乱れるほどの情熱、嵐のような恋を思い出して濡れるエロイーズ。こんなにもエロチックにビバルディの「四季」を聴いたことがなかった。エロイーズの身の悶えと吐息、嵐や雷を連想させる「夏」の楽章は新しい出会いでした。最後に一緒に悶えました。よかった。
圧倒的な傑作!!自分自身よりもいとおしい他者を想い/想われること
結論から書くと圧倒的な傑作です。
それも、個人的な感想ですが、泣ける、ハラハラするという一次的な尺度では測れない傑作です。
どうでもいい自分語りからはじめます。私は絵を描くことが昔から苦手でした。
美術の授業中に先生から何度となく言われた言葉。「もっとよくみて書け!」
そのたびに、「みてるわい。それでも下手なんじゃ」と思っていました。
この物語にのめりこんでいく脳みその片隅では、そんな記憶が反芻され、そしてはっきり理解しました。私はみるという行為の本質を何も理解していなかった、と。
『みること/みられること』を全編通じて描いた作品ですが、
さらにラスト前とラストシーンで提示されたのは、『自分自身よりもいとおしい他者と出会い、想うこと/想われることが、選ぶことを許されないまま、それでも進んでいく人生をあたためつづけうる』というメッセージと考えます。
解釈の余地を残すラストシーンですが、私はエロイーズもマリアンヌの存在に気付いていると思います。
というか、二人の人生があのラストシーンでふたたび交差したことは幸せな偶然ではなく、
ヴィヴァルディの夏という、互いにとって数少ないながら明確な共通項を演奏する公演である以上、会えるかもと期待して訪れずにはいられなかったと思います。
本当に会えてしまった二人、思わず目で追うマリアンヌ、一方でエロイーズの覚悟、
スクリーンを通じてマリアンヌの視点を得た私が無意識にしていたことは、エロイーズの顔のつくり、うつろう表情をひとつも取りこぼさないようにみるということでした。
ラストシーンがいつまでも終わらなければいいのにと思わずにはいられませんでした。
繰り返します、圧倒的な傑作でした。
エロくて綺麗
写真が発明される前、娘の結婚に必要な肖像画を描くため女性画家を家に招き、娘には内緒で絵を描いてくれと依頼される。
画家のマリアンヌは何とか絵を完成させたが、娘のエロイーズに見せてからにしたいと言って見せた所、批判された。
描き直しする中で、マリアンヌとエロイーズはお互い愛するようになり・・・てな話。
最初濡れた服を乾かす時にマリアンヌが全裸になったり、エロイーズとトップレスでのベッドシーンが有ったりと、なかなかエロくて綺麗だった。
最後のエロイーズの涙とアップがたまらなかった。
絵を描くことは感情がここにあるという証 当たり前のように押し殺さな...
絵を描くことは感情がここにあるという証 当たり前のように押し殺さなければならない感情の叫びを表現をすることで前に進む 補足:時代と絵描きとしてのリアリティは無い(絵画への理解の足りなさが目立つ)が、フィクションとして、リアリティを無視してまで、人物の感情にフォーカスしたのでは。ある意味、漫画的。
シーンに1つの無駄もない傑作
「観察」を通して育まれる愛情。
こんなふうにじっくりと他者を見つめる機会が、現代にあるだろうか?
静かで、丁寧で、動きも場面も多くは変化しないけれど、発する言葉と吐息、キャンバスを走る木炭の音、衣擦れ、どれも心地よく耳に入ってきたし、描写もとても美しかった。
女性がイニシアチブを取れない時代にありながら、男性がほとんど登場しない。オープニングの、男たちの船上での冷たい視線。男のいぬ間に中絶する少女。父の名を借りて作品を発表する画家の主人公。
ひとつとして無駄のない、美しい傑作を観ました。
男が出てこないから女の苦しみが分かる
予告映像の段階で設定の美しさと画の美しさが際立つ作品だったので、ムビチケを購入し見てきました。非常に素晴らしい作品だったんですけども、己の文化的感受性が低いので、この映画を生涯ベストと言い切れる感性が欲しい、転じてこの作品の良さをもっともっと知りたいと思わされる1本でした。 こういう女性ならではの映画って結構あると思うし、今回も不条理な結婚や母親の見ていないところでと体を気にしつつの中絶など、よくあると言えばよくあるわけで。男性がたくさん出てくることでマイノリティー感を感じたり。家父長制を明確に示したりすることなく、男性キャラクターを徹底的に廃することで浮き彫りになる女性の苦しみというのが面白かったです。 また、音楽が使われるシーンが明確に少ないんですけど、だからこそ使われたときの悍ましさというか破壊力が凄かったです。謎の海での集会は二人の関係性を高める上で重要な効果を果てしていたし、ラストシーンのとある登場人物の振り向くわけには行かないという強い決意と悲しみを思い切った長回しにオーケストラをあてる演出、どちらも素晴らしかったです。 とにかく映像が美しかったので、映画館で観ることができて良かったと思いましたし、表情や視線の一つ一つに気を配られていて素晴らしかったと思いました。
この激情は…
18世紀フランス。ある貴婦人に、娘のお見合い用肖像画を描いてほしいと依頼された画家と、結婚を嫌がる娘との間に巻き起こる恋愛劇。 娘のエロイーズは結婚を嫌がっている為、マリアンヌは画家ということを隠し、陰で肖像画を描かなければならないという難しい展開。 しかし、2人近くで過ごすうちに、お互いに特別な感情が芽生え始め…といった物語。 一部を除き、BGMの一切ない静かな進行でありながら、セリフのひとつひとつが意味深というかロマンチックというか、聞き流すことができずに惹き込まれる。 許されぬと知りながら互いを想い交わり合う2人。しかしそれでも別れの日、エロイーズがああ言ったのは、愛されていたと思いたかったからか?或いは!? そして一番大事なシーン。 単に気づかなかっただけなのか?敢えてなのか? だとしたら彼女の想いは…。 所々で観客に解釈を委ねられるような場面があるが、本作を考察する上で欠かせないのが、ギリシャ神話のオルフェウスの話(とはいえ私も知らなかったのですが)。 この物語では「振り返ること」に、特別な意味があるのですが…。 女性の社会進出がまだまだ薄かった18世紀、さらに女性同士の恋心という難しい状況。 それでも燃え上がってしまう想いを2人はどうしようとしたのか!? いつまでも観ていられそうなラストシーンに、皆さんも燃え上がること間違いなし‼ この激情は、是非劇場で体感してほしい! ミニシアターランキング3週連続1位は伊達じゃない!! …と、宣伝みたいなレビューになってしまいましたが、ホントにラストはトリハダモノ。 個人的2020年映画ランキングも固まってきたところで、突如出逢ってしまった強豪作品だった。
盛り過ぎだと思います。
その昔「禁断の恋」と言えば、身分違いや国違い、家門違いなどなど。近親者ってのも流行ったか。それが今はLGってだけなんじゃないかと、ひねくれた事を言ってるのは私です。 歴史に残る傑作!らしいけど、その歴史って、何処の世界のどんな歴史やねん! などと。 妙に引っかかるのは「売り手」の態度なんですが、映画としてはキレイだった。 イヤー、今日はッドッロドロが刺さる日みたいなんで、ほぼ刺さらずに帰宅中です。
長い時を経て
ジェンダーバイアスが今よりももっと強かった時代に、マリアンヌとエロイーズみたいな人は沢山いたのでは?と想像します。今までは何気なく観ていた肖像画ですが、もしかすると様々な暗示が込められているのかもしれませんね。穏やかな外見とは裏腹な激しい内面を、まるで肖像画の様に微妙な表情やしぐさで表現していた作品でした。全体的にブルーかかったフィルムも美しかったです。長い時を経て、今やっと彼女達の気持ちが作品を通して世に出ましたし、LGBT作品でも女性を描く作品と女性監督が増えてきているので、これもとても嬉しい変化ですよね。LGBTの先人達もあの世で喜んでいることでしょう。芸術や文化はその人が亡くなってもこうやって次世代に引き継がれるので、今非常識とされることでも反抗してやってみる価値は大いにあると思います。
美しい映画
画家のマリアンヌは貴族の娘エロイーズのお見合いのため肖像絵を描きに訪れる。絵を描き/描かれるうちに二人は惹かれあっていく。 ジャンルとしては「芸術系映画」。どのシーンも美しく絵になり、地味な映画ながら飽きさせないのは素晴らしい。 マリアンヌとエロイーズの恋を主軸に、抑圧された女性が描かれている。かといって、男性が悪者として描かれているわけではなく、むしろ男性は作品から徹底的に排除され、ほとんど登場しない。あくまで女性を淡々と描いている。 二人が惹かれ始めるのが少し唐突に感じた。 本作は批評家から絶賛されているが、批評家でもマニアでもない私からするとそこまで・・・という感じ。 見て損はしなかったが、心に残る映画ではなかった。 ラストシーンに重要な意味があるそうなので最後まで気を抜かずに。私には読み取れず。
ロングドレスごっこに思いを馳せる
18世紀フランスで貴族の娘と彼女の見合い肖像画を描く画家との恋愛映画。 画家の視点で、映像が絵画のように美しい。それは例えば壮大な海だったり、光源の少ないキッチンだったり、白い布のかかった居間においてあるチェンバロだったり、黒い布の服をきたモデルの貴族の娘だったりする。 恋愛ストーリーはことこと煮込まれていくようで、どういう結末を迎えるか知っているのに行方が気になって引き込まれてしまう。 同時に象徴派のように謎も多い。いくつかの謎ははっきり回答がでないまま映画が終わる。 ストーリーの要素として男性との関係(結婚など)が大きな比重を占めるにもかかわらず、この映画にはほとんど男性が出てこない。それだけではなく、覚めて正気にもどされるような引いてしまう要素がない。不思議と勝手知ったるといったような心地よいノスタルジーを感じた。 最後になるが邦題も素晴らしい。ちょっと時代を感じる古めかしい言葉遣いや、ロマンでありロマンスであることを理解できる題名で、不要な副題もなくていい。
(^_^) 久々の見応えある映画、激しく推奨。
激しく推奨!!!
久々の見応えある映画。
孤島に住む母と娘。娘エロイーズは歳の頃30歳前半、完全に婚期を逃して世間を何も知らず島に閉じこもる。姉がいたようだが自殺。
この娘の結婚の話がありお見合い用の肖像画を描きにパリから女性の肖像画家マリアンヌが訪れる。2人は惹かれ、愛しあい、別れ、そして再会を、、、、。
美しすぎる。同性を愛する話であるがノーマルな人が見てもグッとくるはず。
愛し合う2人は本当に美しく見えます。
ラストとラスト手前は感動しました。
ラスト手前は別れて数年後マリアンヌがエロイーズの肖像画を偶然絵画展で見つけるんですけどエロイーズはマリアンヌを忘れていなかったことが絵画を見ただけでわかります。ハッとされました。
そしてラスト、オーケストラのコンサート会場で会場のトイ面でマリアンヌはエロイーズを見つけます。マリアンヌはエロイーズは私を見つけていないと言いますが、、、、、。感動的な曲とともにエロイーズの涙を浮かべた顔のアップ。私はエロイーズがマリアンヌの方を向くんじゃないか?向くんじゃないか?向くんじゃないか?と思いつつ映画はそこで終わります。完全作者の術中にハマってしまいました。
完全ネタバレ スンマソン。
あの終わり方、、、、さすがフランス映画。日本人と通じる物を持っていらっしゃる。
〝万引き家族〟同様、ラストは視聴者に託されています。
ちゃんと睡眠を取ってから見た方がいい。
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婚約を控えた貴族の娘の肖像画を描くために、フランスのある島の館にやってきた女性画家の話。
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この話すごく『君の名前で僕を呼んで』に似てるなと思った。ひと夏の恋、男同士、舞台はイタリア、ラストはエリオが泣いているのを正面からくつして終わる(音無し)。
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これを全部逆にすると『燃ゆる女の肖像』の話になると思った。ひと冬の恋、女同士、舞台はフランス、ラストはエロイーズがそっぽを向いて泣いているのをうつして終わる(大音量のオペラ)。
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あとは、毒蛇から妻を救うために地上に戻る際、絶対に妻の方に振り向くなと言われていたのに振り向いてしまい永久に妻を失ったオルフェウスの神話が出てくるんだけど、これ『窮鼠はチーズの夢を見る』でも出てきてる。
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今ケ瀬が見ていた映画はこのオルフェウス神話を元にした『オルフェ』という映画で、だから『窮鼠』の2人は向き合うと上手くいかなくなるのよね。
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こういうのを考えると最近のLGBTQ映画の流れって全部同じ流れの中にあるのかなと面白かった。
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思えば初めて2人が対面する時も先を歩くエロイーズが振り向いていて、だからこそマリアンヌは彼女の顔を見れて絵を描くことができる。でも絵が完成するとエロイーズは嫁ぎに行ってしまう。
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この映画の中で振り向く行為を肯定してるマリアンヌは、いずれ別れなければいけないと決まっていても、見つめ合って絵を描くという一瞬の大きな幸せを掴んだのかな。そして最後エロイーズが一度も顔を向けてくれないのに繋がってきて悲しい。
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なんか途中めっちゃ眠たくてそんなハマってないなとか思ったけど、これ書いてるうちにすごい良い映画だったんだと実感している(笑)
【"緋色と翡翠色"の二人の女性の禁断の恋" 18世紀フランスの離島を舞台に、気品溢れるエロティシズムな映像でその様を描いた作品。鑑賞後の僥倖感にじっくり浸れる作品でもある。】
■特に素晴らしき点
・肖像画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)と、伯爵夫人の次女エロイーズ(アデル・エレル)の笑顔なき出会いから、徐々に打ち解けて行く過程を彩るフランスの離島の海岸の荒々しくも、美しい風景。
- この海岸の様々な風景が、二人の関係性の変遷と、重なって見える・・。-
・マリアンヌは、住込みの少女ソフィーと徐々に心を通わせ、伯爵夫人が島に戻るまで、彼女達(途中から、エロイーズも)が一緒に食事を食べるシーン。及び少女の堕胎のシーン。
- イロイロな事を語っていると思ったシーンである。
当時は貴族と女中が共に食事をすることはなかった筈であるし、堕胎も・・。-
・二人が愛し合った後に、マリアンヌが、エロイーズにあげた本に、エロイーズの横臥の裸体を描くシーン。
そして、数年後、展覧会でマリアンヌが、エロイーズとその幼き子供の肖像画を見るシーン。エロイーズが持つ本のページが描かれている事にマリアンヌが、気付くシーン。
- 見事である。唸らされた。-
◆マリアンヌが書き上げた「燃ゆる女の肖像画」が、マリアンヌと、エロイーズの二人の顔が合わされているように描かれたように、私には見えた・・。
・ギリシャ神話の”オルフェウスの冥府下り”のシーンを、”今までにないオルフェウスの妻が夫の目の前で”冥府”に引き戻される姿”を描いたマリアンヌの意図。
- 分かりやすいが、オルフェイスはマリアンヌ、オルフェスの妻はエロイーズであろう。ー
・マリアンヌが、エロイーズに様々な感情を拙いピアノで伝える序盤のシーンと、ラストの「ヴィヴァルディの四季/夏の第二楽章からの嵐」が、激しく奏でられる関連性。
オペラ座で、二人が遠目に再会しながら、エロイーズが一切、マリアンヌの方を見ずに、毅然とした態度を崩さない中、涙を流す横顔。
-今年の、個人的に激しく魂を揺さぶられたシーンである。見事である。-
・18世紀の貴族の衣装、住んでいた館の意匠の美しさも、この作品に深みを与えている。
<素晴らしき作品に出会えた事に、心から感謝である。>
深いような。
人って狭い所で生きてると、色々偏りができてしまうもの。
2人が別れた後のエロイーズとエロイーズの子供の肖像画を目にしたマリアンヌ。マリアンヌはエロイーズを片時も忘れてなかったように思えた。だから切ない。
エロイーズの手にしている本の28ページを見て、報われたのかな?
それでも切ないな。
だって、自分は独身なんだもん。
って思ってしまった。
3人とも素晴らしい演技でした。
永遠の愛の獲得と喪失を同時に表現した巧みな脚本
画家のマリアンヌは離島の貴族から娘、エロイーズの肖像画を描いてほしいと依頼される。
写真もない時代。
女性の肖像画を送り、相手が気に入れば婚姻が成立する、というのが当時の習わし。
エロイーズの母もまた、送った肖像画を気に入られて、この家に嫁いで来たのだった。
しかし、姉の死により、本土の修道院での暮らしを楽しんでいたところを呼び戻されたエロイーズは、結婚を望んでおらず、不機嫌だ。
マリアンヌの前に依頼された画家は、肖像画を描かずに帰った。エロイーズが、画家に、まったく顔を見せなかったのだ。
そこでマリアンヌは画家であることを隠し、“散歩の相手”として、エロイーズと接し始める。
マリアンヌは当初、怒りで心を閉ざしていた。しかし、エロイーズと徐々に打ち解け、信頼し合うようになり、やがて恋に落ちる。
この過程で、2人がどんどん美しくなっていくのが見事だ。
だが、肖像画が完成すれば、マリアンヌは島を去らなければならない。そしてエロイーズは結婚に向かうことになる。
映画の中の愛は、いつでも「時間限定」だ。
「スピード」のキアヌ・リーブスとサンドラ・ブラックが、事件が終わったあとも長く付き合っているかどうかを問うのは野暮である。
「スター・ウォーズ」のシークエル・トリロジーで描かれたハン・ソロとレイア姫の“その後”は、現代的なリアリティはあるが、苦い。
それでも映画は、描いた愛の強さを伝えるために、愛の永遠を表現しようとする。
本作では常に、「見る」「見られる」関係が意識される。
画家のマリアンヌは肖像画を描くためにエロイーズを観察する。つまり本作ではマリアンヌが「見る側」、エロイーズが「見られる側」にある。
マリアンヌが島を去るシークエンスは、劇中に登場するギリシャ神話のオルフェが伏線になっている。
オルフェは死んだ最愛の妻を取り戻すため、死者の国に下り、そこで妻を連れ帰ることが許される。
ただし、条件があった。
死者の国から地上に戻るまで、後ろを歩く妻のことを一度も振り返ってはいけないのだ。
ところが途中でオルフェは振り返ってしまい、妻は再び死者の国に落ちていってしまう。
オルフェが振り返ったのは妻を愛するがゆえである。そして、永遠に妻を喪うのだ。
島を去る場面。
マリアンヌは、エロイーズと短い抱擁を交わしただけで、足早に屋敷を出ようと階段を降る。追いかけるエロイーズは「振り返ってよ!」と叫ぶ。
マリアンヌが振り返って見たのは、踊り場に立つウェディングドレスを着たエロイーズ。
その姿は、マリアンヌが2度も見た幻と同じ姿である。その幻を見るシーンも、マリアンヌは「振り返って」見ている。
マリアンヌは「見る」、エロイーズは「見られる」。
これが2人の愛の関係である。
オルフェは愛の物語だ。
オルフェの深い愛と、と同時に、その愛が喪われることを表している。
マリアンヌはなぜ、振り返ることなく足早にエロイーズの元を去ろうとしたのか。
それはオルフェの物語が頭にあったからではないか。振り返ってしまい、エロイーズと永遠に会えなくなることを恐れたからではないか。そしてマリアンヌが2度も幻を見てしまったのもまた、その「恐れ」の深さゆえなのではないか。
と同時に、愛するがゆえ、その後のエロイーズの幸せを願ったからではないか。オルフェが振り返ったことで、妻は死者の国に落ちた。エロイーズの結婚が、彼女にとって「死者の国」にならぬよう、マリアンヌは振り返ろうとはしなかったのだろう。
ラストに入る後日譚が秀逸である。
後年マリアンヌは、絵の品評会にいる。彼女はギリシャ神話のオルフェを題材にした絵を出展していた。
そしてマリアンヌはそこで、エロイーズが描かれた肖像画を見る。エロイーズの手には1冊の本、そして28ページが開かれている。
そのページは、余白にマリアンヌが自画像を描いたページだ。
肖像画には、その人の価値観や大切にしているものを一緒に描く。マリアンヌは、エロイーズの愛の永遠を知る。
そして、ここでもマリアンヌは「見る」、エロイーズは「見られる」側だ。
さらに、その後、マリアンヌは音楽会でエロイーズを見かける。エロイーズは口を開けて、感情をたかぶらせ、涙を流しながら音楽を聴いている。
曲はヴィヴァルディの「夏」。それは、かつてマリアンヌがピアノで、エロイーズに弾いて聴かせた曲だった。
そして本作の最後のシーンでマリアンヌは、こう語る。「エロイーズは私を“見なかった”」。
そう、マリアンヌは「見る」側で、エロイーズは「見られる」側。これが2人の愛の関係である。島にいたときと変わってはいない。だから、確かに、ここに永遠の愛は存在している。
しかし、愛はあっても、2人はもう会うことはない。それは、オルフェと同じく。
ここに、愛の喪失がある。
この愛の永遠性と同時に喪失を表す、素晴らしいラスト。
喪われてもなお、残り火のように熱を持つ愛。2人の想いの深さと切なさに打たれる。
「28ページ」、ヴィヴァルディの「夏」、そして「オルフェ」。親密になっていく過程で語りあった音楽や文学が、すべて伏線となり、島を去るシーンと後日譚に意味を持つ。見事な脚本である。
それらが生み出す、観終わったあとに心に刻まれる余韻の深さ。それが心を掴んで、しばらく離さない。
傑作だ。
♪僕にパスをください あゞ藤井ノンパス藤井ノン
人により退屈する可能性あり。 間を感じ取れたり、モナリザの絵とかを20分眺めていられる人にはよい作品だろう。 序盤ひたすら無言、たまにしゃべっても柔らかいフランス語、さらには海や風や火などのやさしい音が多く、睡魔との戦いとなる。 その格闘の中、字幕がまた早い。1度でも見逃すと物語についていけなくなる可能性があるので、かなり気を引き締めて見ないといけない。 作品の社会背景とかが分かると少し面白い。解説サイトを推奨する。 良い点 ・振り返るオルフェの解釈 ・寄りそう赤ちゃん ・展示会の絵 悪い点 ・冒頭の画面の面々が先生以外は物語に無関係。 ・一見アマチュア映画にも見える。
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