劇場公開日 2020年8月14日

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「余韻が残る」ポルトガル、夏の終わり しんぐちゃんぐさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5余韻が残る

2020年8月22日
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勤め先の同期が死んだ。職場の電子掲示板で知った。何年も会っていなかった。本当は違う。去年の暮れ、ターミナル駅ですれ違っている。声を掛けようか躊躇して、そのまま人混みに紛れてしまった。若い頃は良く飲んだ。一緒に旅行も行った。人伝てに聞くと、前日も変わりなく過ごして就寝して、翌朝起きて来なかった。

若い頃は観念上の存在に過ぎなかった死が、すっかり身近になってしまった。ガン家系なので、自分はガンで死ぬものと決めつけている。幸か不幸か、ガンで死ぬまでには多少の猶予が与えられる。その間に行きたい場所へ行って、会いたい人にも会えるだろう。そんな甘ったれた幻想が、当たり前で無いことを思い知った。

「ポルトガル、夏の終わり」は、いわゆる「終活」映画である。死期を悟った国際的な名女優が、ポルトガルのシントラという避暑地に滞在して、ロンドン、パリ、ニューヨークに暮らす家族や元家族、親しい友人を「バカンス」と言って呼び寄せるのである。生前葬を意図していたかは分からない。

シントラは、バイロンに「この世のエデン」と称された古都で、生い茂る木々の緑が色濃くて美しい。彼らは世界遺産の迷路のような街並みを、三々五々、離合集散を繰り返しながら、散策し、食事し、会話を交わすことで、それぞれの関係や思惑が垣間見えて来る。その手法は見事だ。大の大人たちが、人生に迷い悩み苦しんでいる。

役柄そのままの名女優である、イザベル・ユペールの演技が素晴らしい。生前に解決しておきたかった家族問題は思うようにならず、内心忸怩たる思いがあるだろう。それでも、明るい大西洋を見下ろす山頂で、一人、愛する人たちの集合を待っている、凛とした佇まいに気概を感じた。

一方、唯一の若者である義理の孫娘は、理路整然として怖いもの知らず。聡明な眼差しと、褐色の伸びやかな肢体が印象的である。皮肉なまでに、大人たちとは対照的な存在。今や家族の形は様々であり、血縁なんて一つの要素に過ぎない。未来を、託したくなる。

劇的なことは何も起こらず、何の答えも示さない映画だけれど、それが正解だと思う。人間なんて、そんなもんだ。ただ余韻が残る。

しんぐちゃんぐ