劇場公開日 2020年2月28日

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「フランスらしいウソのない映画だ!」レ・ミゼラブル 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0フランスらしいウソのない映画だ!

2024年5月26日
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鑑賞方法:映画館

日本代表が初めて出場を果たした1998年のFIFAワールドカップで勝ったフランス代表は、監督・キャプテンの白人、マグレブ(地中海沿岸の旧フランス植民地)からの褐色の移民たち、アフリカ・サハラ砂漠以南の旧フランス植民地からの黒い人たちのトリコロール(三色旗)と言われた。何と言っても、中心はマグレブの英雄、ジダン。
2018年のワールドカップでフランス代表が再び勝ったときは、若手のFWエムバペが目立ったが、カメルーン系の父親の血を引いて肌の色が黒かった。フランスにもこうした変遷があり、この映画にも現れていた。
主人公のステファンは、この頃よくフランス映画で見かけるダミアン・ボナールが演じている白人警官。別れた妻と子が引っ越ししてきたのに合わせてシェルブールからパリ地域に来た。住んでいるのは、窓からパリの文化の一つの中心であるラ・ヴィレット公園のラ・ジェオードが見えるアパート。リアリティがある。
彼は新任早々、同僚のクリスとグワダと組んで、パリ近郊(バンリュー)モンフェルメイユの警備にあたる。この地は、もともとヴィクトル・ユーゴーのレ・ミゼラブルの舞台の一つ。今は移民の街で、中高層の低所得者用のアパートが立ち並び、治安はお世辞にもよいとは言えない。
始まりは、マグレブ系らしいイッサを中心にした若者たちの悪ふざけだったが、とんでもない事態に発展する。現在のモンフェルメイユの表の顔のアフリカンの市長とその取り巻き、実際に街を仕切っているケバブ・レストランのマネージャーであるサラー、情報屋、伝統の移動サーカスの担い手のロマ(ジプシー)まで出てくる。しかも彼らは、どの一人をとっても、よいことをすれば悪いこともする(鬼平犯科帳と全く同じ)。事件の狂言回しは、警官も利用しているSNSを通じて広まる情報とドローンで撮影された画像。マグレブもアフリカンも、基本的にはムスリム(イスラム教徒)か。
いったん、新入りステファンの活躍でことが収まったと思ったが、おっとどっこい、舞台には奥の幕が用意されていた。驚くのは、若者たちは徒党を組むと、警官どころか、地域の表の顔や、実質的支配者の言うことにも耳を貸さず、やりたい放題暴れる。それだけ追い込まれていて、将来に希望を抱いていないということか。この映画は、2008年に実際起きた事件を元にしているようだ。
初めて長編の監督を務めた自身モンフィルメイユの住人、マリ出身のラジ・リ監督は、解決の方向として、何とレ・ミゼラブルに出てくる言葉を提示する。
il n'y a ni mauvaises herbes,
ni mauvais hommes,
il n'y a que de mauvais cultivateurs.
この世には、生まれつきのならず者も、悪い人間もいない。育てる者が悪いだけだ「抄訳」
最後は、フランス文化の伝統と叡智の中に、救いを求めよということか。
ラジ・リの次回作が我々を待っている。緊張感に満ちた素晴らしい映画だった。

詠み人知らず