劇場公開日 2020年2月28日

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「分断の行く末」レ・ミゼラブル 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0分断の行く末

2024年5月3日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

興奮

ヴィクトル・ユゴーの名作「レ・ミゼラブル」の舞台であるパリ郊外のモンフェルメイユは移民や低所得者が多く住む犯罪多発地帯の一つ。
この作品は現在もこの地に住むラジ・リ監督が、実際に見聞きした出来事を基にモンフェルメイユの“闇”やその住民の“悲惨さ”、更にはパリだけでなく世界の様々な場所で起きている弱者達の貧困と暴力を浮き彫りにしていく。
一般的に「レ・ミゼラブル」というと、原作小説は勿論のこと、名作ミュージカルやオスカーに輝いた劇場映画版を思い浮かべる人が多いと思うが、同じタイトルながら本作は、多幸感溢れるオープニングと裏腹にラストに向かうに連れて“救い”が無くなり、思わず「ああ、無情!」と呟きたくなる。
本作は、この怒涛の終盤30分に至るまでの“プロセス”を描いたものと言えるが、その発端はほんの些細な、一人の少年の“犯罪”によるもの。
子供がやったことなので看過すれば良いものを、生まれ育ち、言葉や文化、宗教も違う多民族の寄せ集めのモンフェルメイユでは、分断への“引き金”になってしまう。
この“引き金”を加速させるのが、主人公ステファンが所属する地元警察であり、地域を仕切る“市長”のような存在。
これらの人物達は力で弱者を抑え込み、従わせようとするが、力を行使すればする程、隷属する方の不満や怒りが溜まり、遂には暴発する。
監督曰く、日常茶飯事に起きているとのことだが、その暴発シーンは圧倒的で息を呑む。
世界的に少数の富裕層によって支配される社会において、この映画で描かれた連鎖する悲劇は何時、何処で起きてもおかしくない。

玉川上水の亀